Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ
素材のポテンシャルを引き出し、現象を起こす
永山祐子建築設計 永山 祐子
特性を知れば知るほど素材は面白くなる
― 素材はいつもどのように見つけているのですか?
永山:プロジェクトに合わせてこういう素材はないかと思ったら一所懸命に探しますし、素材は好きなので、気になったものは常にストックしています。
例えば「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン) 京都大丸店」で使った偏光板にはそのずいぶん前に出合っていて、空間を可視化するような現象が起こるので面白い、とストックしていました。別のプロジェクトでの使用を考えたこともありましたが、予算が合わず、高級ブランドの仕事なら使えるかな、と思っていたら、ルイ・ヴィトンのファサードデザインのコンペに参加する機会を得て、「待ってました」という感じでした。
― 偏光板の採用の裏には大変な努力があったと聞いています。
永山:高耐久偏光板で当時、世界シェア1位のメーカーに問い合わせたのですが、普通は建材として使うものではないし、液晶画面で儲かっているから建材市場に進出する必要もなく、門前払いでした。また、新しい素材なので施工者も採用には慎重で、とんでもなく厳しい耐久試験にかけられ、サンプルがボロボロになって、これは使えませんと言われました。でも、その試験のような状況は実際には起こらないし、結果の考察もできていなかった。だから私は「その試験結果には従えません。違う結果を1カ月後に持ってきます」と言い切ったんです。


ファサードデザインに偏光板を使った「LOUIS VUITTON京都大丸店」。2004年の完成時、永山さんは28歳だった(写真:阿野 太一)


ルイ・ヴィトンが古いトランクに使用していたストライプパターンと京都の町並みの縦格子のイメージから、縦ストライプを基調とするファサードデザインにした。黒い縦ストライプは実在せず、偏光板によってそのように見えている(写真:阿野 太一)
― ええっ! 確信はあったのですか?
永山:ありました。偏光板について徹底的に調べて、なぜボロボロになったのか、何に弱いのか、すべてわかっていましたから。ただ、その先はメーカーとタッグを組まないと進まない。どうしようと思っていたら、担当スタッフのお母さんがそのメーカーの社長夫人と友達だとわかり、いきなり社長さんに会えるというミラクルが起きたんです(笑)。
社長に会うときは大きな模型と試験結果の考察などをまとめたレポートを持って行きました。そして、今後はこれこれこういう試験を行えば解決策が見えるはずだ、と話したら、「よく勉強しましたね。全面協力します」と。その言葉を聞いた瞬間、いけるって思いました。
― 努力が報われたのですね。
永山:素材はその特性を知れば知るほど面白くなります。別の現象を生み出せるのではないか、こういう使い方もできるのではないか、と可能性をどんどん広げられますから。
(TALK #04に続く)

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TALK #20
素材にひそむ力の強さを拠り所にして

TALK #19
その場所らしさをデザインや素材で表現する

TALK #18
温故知新を大切にした空間づくり

TALK #17
理想の空間を具現化する

TALK #16
壁紙が持つ空間の支配力はすごい。

TALK #15
遠くから見ても。近くで見ても、面白い。

TALK #14
驚きや喜びのあるホテル空間をつくる

TALK #13
ホテル空間の新しい表現に挑む

TALK #12
日本の伝統技術で高付加価値を目指す

TALK #11
日本の伝統的な素材や技術をインテリアに

TALK #10
部屋がオーケストラなら、壁面は指揮者

TALK #09
インテリアを豊かにする素材の使い方

TALK #08
風合いを感じさせる素材の使い方がある

TALK #07
素材の風合いを常に意識して

TALK #06
デザインはコミュニケーションの方法

TALK #05
空間の密度を保つ素材の選び方

TALK #04
プロジェクトの完成度を高める素材の力

TALK #03
素材のポテンシャルを引き出し、現象を起こす

TALK #02
視点を変えると、素材の使い方がぐんと広がる

TALK #01
一つの「敷地」で、主役となる素材を決める