Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ
部屋がオーケストラなら、壁面は指揮者
黒田美津子事務所 / Laboratoryy 黒田 美津子

サンゲツ品川ショールームのスタイルショーケースの「CHIC NORDIC(シック・ノルディック)」にて(*印以外の写真:栗原 論)
インテリアスタイリストの黒田美津子さんの手により、2017年6月末に新しくなったサンゲツ品川ショールームの4つのスタイルショーケース。
前編に続いて各スタイルのポイントと、サンゲツの商品全般についても話を聞いた。
部屋の雰囲気を大きく左右する壁面は、オーケストラにたとえれば指揮者のような存在だという。

【CHIC NORDIC / Lounge】
― 黒田さんがテーマ設定から内装ディレクション、スタイリングまで手がけた品川ショールームの「スタイルショーケース」について、3つめにお話しいただくのは「CHIC NORDIC(シック・ノルディック)」です。
黒田:「シック・ノルディック」はひと言で表すと、大人の北欧スタイル。単なる北欧スタイルではなく、異なるテイストや次のトレンドを盛り込み、ミックスしています。
例えばラウンジは、一方の壁面に落ち着いた深緑色の壁紙、もう一方にやわらかいピンクの壁紙を貼りました。深緑は今年の流行色ですね。ピンクの壁紙には銅色のラインが入っていてトラッドテイスト。ピンクといえどもシャープで、甘い感じはしないでしょう。床は人気のヘリンボーン柄を簡単に実現できる新商品を使いました。これもトラッドテイストの演出に一役買っていますね。ラグは「ベニワレン」というモロッコのものです。
― カーテンもツートンカラーで、素敵です。
黒田:2色の長さのバランスを見極めるのに苦労しました。全体はわざと長く、たっぷりさせています。海外の住宅やホテルのイメージです。これによって少し非日常な感じが生まれます。アクセサリーのタッセルも少しキラッとするものを選びました。
椅子やキャビネットなどの家具はヴィンテージで、アルヴァ・アアルトのアームチェアの座面はサンゲツの生地で張り替えました。オブジェや雑貨は旅で手に入れたものからセコンドハンド(中古品)まで、気に入ったものを飾るスタンスで選んでいます。さまざまなスタイルを混ぜながら、メインカラーとアクセントカラーの配分でまとまりを生むように意識しています。違和感はないでしょう?

黒田 美津子 Mitsuko Kuroda
1988年に女性誌『Hanako』(マガジンハウス)の創刊メンバーとして雑誌記者に。8年間の記者生活の後はフリーランスとして、女性誌やデザイン誌を中心に記事制作、執筆、スタイリングを担当。現在は広告、イベント、展示、商業施設、ホテル、住宅、レストランのインテリアディレクション、スタイリング、コンセプトワークまで幅広く手がける

【CHIC NORDIC / Dress Room】

【CHIC NORDIC / Sanitary】
― この「シック・ノルディック」では新しいライフスタイルとして「ドレスルーム」を提案していますね。
黒田:毎日を忙しく過ごす女性の、パーソナルな部屋をイメージしました。最近は広いウォーキングクローゼットのある住宅が増えましたよね。その場所でお化粧したり、リラックスしたり、単なる収納部屋ではなく、自分が居心地良く過ごせる部屋として使ってみては? という提案です。
インテリアスタイルはあえてマニッシュに、男性っぽくしました。ウォルナットの棚は北欧のヴィンテージで、本来は棚板とボックス部分を一列に組むのですが、分割して取り付け、背後の壁面は「リアテック」を用いて流行色のゴールドに。シックな組み合わせになりました。壁面上部はウォルナットの板目の壁紙、サニタリーもウォルナットの、こちらは柾目の壁紙で、全体に自然を感じさせる木目を多用しつつ、色は抑えています。
― 最後は「PRE MODERN(プレ・モダン)」です。

【PRE MODERN / Living】
黒田:4つのショーケースの中で最もトレンド性が強いのが「プレ・モダン」です。1920~30年代のモダニズムを思わせるスタイルが今年のミラノサローネなどで目を引いたので、ここで提案しています。
リビングはお酒を飲んだり、カードゲームを楽しんだりする部屋のイメージで、ミントグリーンのようにニュアンスがあり、かつ落ち着いたパステルカラーを壁紙で取り入れた中に、造り付けの棚の側面を赤く塗ったのがポイント。天井に貼った壁紙は壁面とは違う商品で、幾何学的な柄が金色で施されていて、光のあたり方や角度によって柄の見え方が変わります。カーテンとラグは流行の深緑色で、カーテンはヨーロッパの感覚で生地をたっぷり使いました。また、曲げ木の椅子の座面にもサンゲツの椅子張り用の生地を使いました。

【PRE MODERN / Children’s Room】

【PRE MODERN / Kitchen】
― 子ども部屋も落ち着いた雰囲気ですね。
黒田:子ども部屋というとビタミンカラーの元気なインテリアをよく見かけますが、ここではクラシックな子どもの部屋をイメージして、大人っぽく。ヴィンテージのドールハウスの中も、壁や床に同じ内装材を貼っているので、そこもぜひご覧になってください(笑)。
― このスタイル展示のミニチュアになっているとは凝っていますね! そしてキッチンも黒が基調のシックな雰囲気です。
黒田:黒いキッチンが今、ヨーロッパで人気なので、以前から設置されていたキッチンの表面に黒い木目調の「リアテック」を貼り、一部を大理石にするのもヨーロッパで流行しているので、左端だけ大理石調の「リアテック」を貼りました。「リアテック」はこれまで使う機会があまりありませんでしたが、いろいろなところに貼れて、部屋の印象をがらりと変えることができるので面白いですね。
― 粘着剤付化粧フィルム「リアテック」は壁面や天井はもちろん、建具や建具枠、家具などを含めて多様な形状や素材に施工できるのが特長です。4つのスタイルショーケースでは結局、サンゲツの商品を何種類くらい採用したのでしょうか。
黒田:計画段階では84種類でした。在庫の関係で変えたものもあるので、最終的には120種類くらい選んだことになると思います。素材の使い方までが皆さんの参考になることを願っています。
それと、もともと私は古いものを活かすインテリアが好きで、この展示でも「持っているものを簡単に捨てず、工夫して活かして」というメッセージをちりばめました。椅子の張り地を変えたのは一例で、古くても磨いて別のものと組み合わせたりすれば生き返る。そんなメッセージも受け取ってもらえるといいな、と思っています。
要素の多いインテリアのイメージをいかに絞り込むか

―スタイルショーケースをデザインする前に、黒田さんはサンゲツの壁紙コレクション「NATURE REFLECTIONS(ネイチャー・リフレクションズ)」の開発ディレクションを担当しています。これまでにも壁紙の商品開発のご経験はあったのでしょうか?
黒田:壁紙の商品開発に関わったのは初めてです。ずっとインテリアの仕事に携ってきて、こういう色や雰囲気の壁紙があったらいいな、と思っていたものを今回実現できました。繊細な色や雰囲気、質感が充分に表現されていて、壁紙の製造技術に可能性を感じました。
― 商品開発はどのように進めたのですか?
黒田:初めに「イメージボックス」をつくりました。「ネイチャー・リフレクションズ」は自然や自然現象をデザインのモチーフにしています。石や葉っぱなどイメージのもととなる実物を箱の中に入れ、イメージを絞り込み、そのイメージのグラフィックデザインをラッピングブランドの「HOW TO WRAP_」さんが考えてくれました。






「NATURE REFLECTIONS」の開発時につくったイメージボックス。上段の左から「beam(光)」、「forest(森林)」、「shadow(影)」、下段の左から「weather(天候)」、「sky(空)」、「paper(紙)」のイメージ(*)
― イメージボックスは、いつものスタイリングのお仕事でもつくるのですか?
黒田:はい。インテリアを決めるときは内装材や布地とオブジェを合わせてつくります。インテリアは要素がとても多いんですよね。まず床・壁・天井という要素があり、家具もモダンやクラシックなどのスタイルがあり、その組み合わせは無限です。その中で足したり引いたりしながら適切なバランスを考えるのに、イメージボックスが役立ちます。
― 「ネイチャー・リフレクションズ」はカタログのスタイリングにも力を入れていますね。
黒田:見る方のイメージが広がるように、さまざまなコーディネート例を掲載しました。「ハーフリアル」と呼んでいますが、生活感が出過ぎない程度に暮らしを感じさせ、若干トレンドを含んだしつらいを試みました。壁面とその手前に置くもので、どのようなハーモニーをつくるか。壁面は部屋の雰囲気を大きく左右します。部屋がオーケストラなら壁面は指揮者といえるくらい、重要だと思っています。

「NATURE REFLECTIONS」の「LIGHT RAY」シリーズのコーディネート例。ブラックメタルの家具を合わせたミックススタイルを提案。「LIGHT RAY」シリーズの壁紙は布目のテクスチャーを活かした上に、銅色のラインがエンボス加工されている(*)
黒田:サンゲツとの仕事で改めて全てのカタログに目を通し、非常にバランスのとれた商品構成だと思いました。バリエーションが豊富なうえ、トレンド要素も取り入れた内容で、使いやすいように工夫されていますし、高度な技術を活かした商品群にも注力されています。こういったことは商品を開発して初めてわかりました。
今回の商品開発に関わって、カタログの商品構成やトレンドの取り入れ方、壁紙に使われている高い技術力など、たくさんのことを知りました。なにより開発した壁紙は前から望んでいたものなので、今はどんどん使っています(笑)。多くの方に使っていただけると嬉しいですね。
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