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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #12

日本の伝統技術で高付加価値を目指す
t.c.k.w 立川 裕大

TALK #12 日本の伝統技術で高付加価値を目指す

t.c.k.wのオフィスには、これまでのプロジェクトで製作したサンプルが所狭しと置いてある(特記以外の写真:深沢 次郎)

伝統技術ディレクターの立川裕大さんは「日本の伝統技術は世界でもトップレベルだ」と力を込めて語る。
そんな立川さんが進める「ubushina(ウブシナ)」は日本各地の伝統技術を活用し、建築家やデザイナーのフルオーダーによるインテリアエレメントを製作する事業だ。
この事業によって伝統技術の価値を新たに見いだし、ものづくりの領域を広げた具体例を紹介しよう。

― 「ubushina」事業では現在、漆や鋳物、箔、竹、組子、和紙、ブナコといった伝統技術や素材を展開していますね。それらが空間の中でどのように使われているかを教えてください。

立川:「東京スカイツリー」には「ubushina」が関わったプロジェクトが複数あります。4階エントランスに設置されたアートオブジェ「スーパークラフトツリー」では指名コンペのお手伝いから製作まで担当しました。

インテリアデザイナーの橋本夕紀夫さんがデザインした12体のオブジェはそれぞれ、「そり」「むくり」「心柱」といった東京スカイツリーの建築的な特徴を、伝統技術を用いて表現しています。僕たちは素材や産地、職人の特性を検討して12体のつくり手をコーディネートし、その後は製作に関する品質、納期、コストをマネージメントしました。

立川 裕大

立川 裕大 Yudai Tachikawa
1965年長崎県生まれ。大学卒業後、カッシーナジャパン、インテリアセレクトショップを経て、1999年t.c.k.wを設立。「ubushina」の活動により2016年、伝統工芸の世界で革新的な試みを行う個人団体に贈られる三井ゴールデン匠賞を受賞

「東京スカイツリー」の4階エントランスで訪れた人を迎える12体のアートオブジェ「スーパークラフトツリー」。橋本夕紀夫さんがデザインを手がけた(写真:Nacasa & Partners)

「東京スカイツリー」の4階エントランスで訪れた人を迎える12体のアートオブジェ「スーパークラフトツリー」。橋本夕紀夫さんがデザインを手がけた(写真:Nacasa & Partners)

― どんな伝統技術を用いたのですか?

立川:東京の和紙、簾、染小紋、組子、金箔、江戸切子、バネ、大分別府の竹細工、長野木曾の漆、岐阜の提灯、長崎波佐見の磁器、京都の飾り結びです。東京の伝統技術だけで12種を揃えるのはさすがに難しかったので、日本中に広げました。バネも伝統技術ではありませんが、日本の経済成長を支えてきた町工場の技術は未来における伝統技術だと考え、その象徴として橋本さんが推薦してくれました。

「スーパークラフトツリー」は12種の伝統技術を用いて製作された(写真:Nacasa & Partners)

― 東京スカイツリーでは4階チケットカウンターの桜組子のカウンターバックや、「天望デッキ」と地上を結ぶエレベーター内のアートパネルのコンセプトメイクと製作にも関わっていますね。

立川:4機のエレベーターはそれぞれ四季をテーマとし、そのうち夏・秋・冬のアートワークを担当しました。夏は「隅田川の空」を表現するのに江戸切子を使い、秋は「祭の空」を錺(かざり)金具の技術で、冬は「都鳥の空」を羽子板などに用いられる押絵の技術で表現しています。

「東京スカイツリー」の「夏・隅田川の空」をテーマとするエレベーターでは江戸切子を使用(デザイン:乃村工藝社 写真:淺川 敏)
「東京スカイツリー」の「夏・隅田川の空」をテーマとするエレベーターでは江戸切子を使用(デザイン:乃村工藝社 写真:淺川 敏)

「東京スカイツリー」の「夏・隅田川の空」をテーマとするエレベーターでは江戸切子を使用(デザイン:乃村工藝社 写真:淺川 敏)

― 「メトロポリタンホテル仙台」のアートウォールにも、さまざまな伝統技術や素材を使っていますね。

立川:玉虫塗り、雄勝石、白石和紙、会津塗り、南部裂織、梳毛織物、秋田八丈、出羽もめん、会津もめんを用いてパネル加工しています。仙台は伝統工芸の生産地というよりは消費地で、ならば東北各地の伝統技術を集めましょうと提案し、集めたものを七夕の短冊のイメージで形にしました。仙台の七夕まつりは有名ですから、それにちなんで。

「メトロポリタンホテル仙台」のフロントに設置されたアートウォール(デザイン:乃村工藝社 写真:Nacasa & Partners)

「メトロポリタンホテル仙台」のフロントに設置されたアートウォール(デザイン:乃村工藝社 写真:Nacasa & Partners)

― 近年、特にホテルや旅館といった宿泊施設で、その地域の特色をインテリアで表現するところが増えています。そのときに伝統技術が用いられることは多いですね。

立川:インバウンド需要もありますが、ルーツ・コンシャスは国が成熟する表れと思っています。国が成熟すると、国民の間に自分たちの足元を見直す機運が高まる。フランスやイタリアなどの成熟国家と同様の道を辿っています。

― 次に、このプロジェクトではどこに伝統技術が使われているのですか?

都内の個人住宅。インテリアデザインはイギリス・ロンドンの事務所が手がけた(デザイン:Mlinaric, Henry and Zervudachi 写真:t.c.k.w)

都内の個人住宅。インテリアデザインはイギリス・ロンドンの事務所が手がけた(デザイン:Mlinaric, Henry and Zervudachi 写真:t.c.k.w)

立川:願ってもない質問です。僕たちはコンテンポラリーデザインやモダンデザインを前提にしていて、どこに伝統技術を使っているのかわからない、と言われるくらいがまさに目指すところ。伝統技術だから素晴らしいでしょう、と言う気はさらさらありません。

この個人住宅はリビングのソファが刺子織、アクリル製のサイドテーブルに封入した麻布は草木染め、テーブルランプのベースは「オハグロ」と呼ばれる金属の着色技法で赤褐色に仕上げるなど、伝統技術をたくさん使っています。

サイドテーブルとテーブルランプのデザイン
Mlinaric, Henry and Zervudachi ペンダント照明のデザイン
STUDIO SAWADA DESIGN

「オハグロ」は銅器着色の世界で古くから伝わる技法。ダイニングの浮遊するペンダント照明はアクリルベースの立体に和紙を張り込んだもので、空間を演出するオブジェでもある(サイドテーブルとテーブルランプのデザイン:Mlinaric, Henry and Zervudachi ペンダント照明のデザイン:STUDIO SAWADA DESIGN 写真:t.c.k.w)

― なるほど、実は多々使われているんですね。

立川:しかも、この住宅は都内にあるのですが、内装設計を手がけたのはイギリス・ロンドンのインテリアデザイン事務所。クライアントは世界中に家を持ち、日本に家を持つなら、日本らしさを感じられるほうがいいのではないか、という話になったそうです。

この事務所からは協働後10年ほど経った今も、このときにつくったものを新たに製作して送ってほしいと連絡があります。日本の伝統技術が世界に認められるレベルであることの証しでしょう。当時も「こんなにきれいにつくれるのか」と感心していました。僕たちも下手なものは絶対に出せないから、金勘定を度外視して、スタッフが製作現場に頻繁に足を運び、クオリティを死守しました。後で財布の中を見て天を仰ぎましたが(苦笑)、クオリティは命。自分たちを守ってくれるものですから。

さまざまな技術の転用により、設計者のアイデアを実現

― アクリルなど、現代の素材や技術を活用することもあるのですね。

立川:日本料理店「槐樹」ではインテリアデザインを手がけた橋本夕紀夫さんから「組子の七宝を大柄で」との要望を受けたのですが、組子の伝統的な製作方法では強度を保てないと思われたため、組子職人ではなく木工職人の手技とNCルータの技術を活用しました。

東京・白金台の「八芳園」内にある日本料理店「槐樹」に納めた七宝柄の組子パーティション。スプルス材を使用(写真:Nacasa & Partners)
東京・白金台の「八芳園」内にある日本料理店「槐樹」に納めた七宝柄の組子パーティション。スプルス材を使用(写真:Nacasa & Partners)

東京・白金台の「八芳園」内にある日本料理店「槐樹」に納めた七宝柄の組子パーティション。スプルス材を使用(写真:Nacasa & Partners)

― 設計者のひと言が挑戦の扉を開けたと。

立川:「こういうことはできないか」と設計者から相談されることは多いんです。このペンダント照明も橋本さんが「三方組の一辺をアクリルでつくれるかな? 継ぎ目を見せたい」と言ったことから製作しました。

個人住宅に納めたペンダント照明では木とアクリルを用いて三方組を実現(インテリアデザイン:橋本夕紀夫デザインスタジオ 写真:梶原敏英)
個人住宅に納めたペンダント照明では木とアクリルを用いて三方組を実現(インテリアデザイン:橋本夕紀夫デザインスタジオ 写真:梶原敏英)

個人住宅に納めたペンダント照明では木とアクリルを用いて三方組を実現(インテリアデザイン:橋本夕紀夫デザインスタジオ 写真:梶原敏英)

― 三方組は木造の伝統工法の仕口ですね。一辺をアクリルにすることで組み方がよくわかります。

立川:ただし、木とアクリルでは収縮率が違う。そこが大きな課題で、仲の良い木工職人に相談したら挑戦してくれました。「東急プラザ銀座」のアートウォールでも木とアクリルの組手を製作しました。また、地下1階では竹に「銀鏡塗装」を施しています。

「東急プラザ銀座」の4階に設置されたアートウォールでは、外観デザインのモチーフである「切子」パターンを木とアクリルで表現(デザイン:インフィクス 写真:Nacasa & Partners)
「東急プラザ銀座」の4階に設置されたアートウォールでは、外観デザインのモチーフである「切子」パターンを木とアクリルで表現(デザイン:インフィクス 写真:Nacasa & Partners)

「東急プラザ銀座」の4階に設置されたアートウォールでは、外観デザインのモチーフである「切子」パターンを木とアクリルで表現(デザイン:インフィクス 写真:Nacasa & Partners)

竹に銀鏡塗装を施した「東急プラザ銀座」地下1階のアートウォール(デザイン:インフィクス 写真:Nacasa & Partners)
竹に銀鏡塗装を施した「東急プラザ銀座」地下1階のアートウォール(デザイン:インフィクス 写真:Nacasa & Partners)

竹に銀鏡塗装を施した「東急プラザ銀座」地下1階のアートウォール(デザイン:インフィクス 写真:Nacasa & Partners)

― 銀鏡塗装とはどういうものですか?

立川:銀鏡反応という無電解めっきを利用した塗装方法です。銀鏡反応は鏡をつくるときにも使われる化学反応で、銀鏡塗装は自動車やバイクを筆頭に工業製品では普及していますが、インテリアに使われたのはこのプロジェクトが初めてではないでしょうか。

― 他分野の技術をインテリアに転用したわけですね。

立川:伝統技術をインテリアに使うことも転用で、切り口を変えるという考え方は同じです。

日本料理店「丸の内一丁目 しち十二候」も他分野の技術の転用例です。電気鋳造の技術をインテリアに使いました。電気鋳造はウィスキーボトルのラベルや自転車のブランドプレートなどの薄い金属に用いられる技術で、型を忠実に再現できます。この店舗は空間全体が麻布で構成されているのですが、調理場の火まわりは防炎対応にする必要があり、設計者から相談を受けて、電気鋳造によって麻布のテクスチャーを金属に転写させる方法を提案しました。

「東京ステーションホテル」内にある日本料理店「丸の内一丁目 しち十二候」では調理場の火まわりの壁面仕上げに電気鋳造の技術を用いた(インテリアデザイン:隈研吾建築都市設計事務所+向後千里デザイン室 写真:淺川 敏)

「東京ステーションホテル」内にある日本料理店「丸の内一丁目 しち十二候」では調理場の火まわりの壁面仕上げに電気鋳造の技術を用いた(インテリアデザイン:隈研吾建築都市設計事務所+向後千里デザイン室 写真:淺川 敏)

― (立川さんの背後に並ぶサンプルから)これは何ですか?

立川:「絹布紙(きぬふし)」のデザインパネルの試作サンプルです。絹布紙は国内産絹糸100%の織物に越前紙を裏打ち加工した弊社の商品で、絹の染色から貼り合わせ、仕上げ加工まですべて手作業でつくっています。古くから襖紙や屏風などに用いられてきた絹をインテリアにもっと活用できないかと考え、開発しました。不燃材料としての認可を受けており、パネル加工すれば大きな壁面にも使えます。

「絹布紙」のパネルサンプル
「絹布紙」が使われたプロジェクトの一例

左は「絹布紙」のパネルサンプル、右は「絹布紙」が使われたプロジェクトの一例。賃貸集合住宅「THE KAHRA 小杉陣屋町」の共用ラウンジの壁面に立体パネルの仕様で採用された(インテリアデザイン:A.N.D. 右の写真:Nacasa & Partners)

― 建築家やインテリアデザイナーに伝えたいことはありますか?

立川:忌憚なく、いろいろと問いかけてほしいと思っています。伝統技術について僕たちだけで考えるのは限度がある。長崎の波佐見焼が今、活況を呈しているのは、産地外の人たちがファンになってくれて、波佐見焼の価値や将来を考えるようになったからです。同じように、伝統技術についても他のジャンルの方たちがどんどん提案してくれる状況が望ましい。

― 今後はどのようなことに力を入れたいと考えていますか?

立川:伝統技術を用いて高付加価値のものをつくっていきたいと思っています。エルメスやルイ・ヴィトンのようなヨーロッパの一流ブランドの商品と同じ土俵に上がれるものを。

フランスやイタリア、スイスに対して日本はずっと貿易赤字で、しかも、これらの国は軽工業品や手工業品、伝統工芸品をブランド化して貿易黒字を常に出している。利益率も高い。日本の伝統技術は世界でもトップレベルなのに、悔しくて仕方ありません。

経済産業省は「文化産業立国」を目指しましょうと旗を振りますが、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品の産地出荷額はおよそ1000億円(2014年)であるのに対し、一流ブランドを傘下に置くLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループの売上高は約5兆7000億円以上(2017年、1ユーロ=135円)。開きが大きすぎる。日本人は高付加価値のブランディングができないんですね。ギフトショーに行けばわかるように、伝統技術を用いてつくられた雑貨はたくさんあります。でも、その方向性で一時はしのげても、付加価値を高めることはできません。

ヨーロッパの一流ブランドのプレイヤーにはルネサンス以降の文化を三日三晩語れるような文化的リテラシーの高い人やMBAを持っている人がうようよいます。そういう人たちがビジネスに取り組むから強い。日本に足りないところです。僕たちのような中間を担う仕事は、伝統技術という日本のかけがえのない資産を未来に向けて発展させるために、とても重要だと意識しています。

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