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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #19

その場所らしさをデザインや素材で表現する
NAO Taniyama & Associates 谷山直義

TALK #19 その場所らしさをデザインや素材で表現する

現在、8名のスタッフを抱え、国内外のインテリアデザインを手がけている谷山さん。学生のころ、パークハイアット東京にできた「NEW YORK GRILL & BAR」を見に行ったときに、プロポーズするカップルに遭遇したことで、空間に力があることを感じ、インテリアデザイナーへの道に進むことを決意したと振り返る。

谷山直義 Naoyoshi Taniyama
1973年名古屋生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。スーパーポテトに入社後、グランドハイアットなど、海外を含むホテルのインテリアデザインを担当する。16年の在籍ののち独立し、2011年NAO Taniyama & Associatesを設立。グランドハイアット大連、グランドハイアットマニラなどのホテルをはじめ、レストランやブティックなど商環境のデザインを手がける。http://www.nt-a.jp

撮影/栗原 諭(特記をのぞく)

2019年2月19日から4日間、東京ビッグサイトで開催された「国際ホテル・レストラン・ショー」で、サンゲツのブースのデザインを手がけた、NAO Taniyama & Associatesの谷山直義さん。世界をまたにかける谷山さんのデザイン手法と素材にかける思いを伺った。

外国人だからこそ引き出せる、現地のセールスポイント

― 海外での仕事が多いとのことですが、素材も文化的背景も違った環境で、どういったことを意識して臨まれるのでしょうか?

谷山:いま仕事のうち8割が海外です。最近でいうと、フィリピン・マニラのグランドハイアットの飲食施設「THE PEAK」を手がけました。高さ318mの、マニラでもっとも高層のビルで、その最上層の2フロアにレストランやバーなど複数の店舗で構成された空間です。このときコンセプトの軸に据えたのは「スラム」でした。

― 「スラム」とは、オーナーの説得はたいへんだったんではないですか?

谷山:現地からすると、ぼくは外国のデザイナーです。だからこそフィリピンを訪れる人の視線が持てる。マニラの町はある種の雑多さがあって、そこが魅力。だからひとびとが路地をそぞろ歩きするように、店舗の境界を曖昧にして、迷路のようにレストランやバー、ミュージックラウンジなどをレイアウトしました。素材やモチーフはフィリピンらしさから引用しています。たとえば伝統的なタトゥーをアレンジした壁面だったり、割竹を編んでパーティションにするといった具合です。単に空間をデコレーションするのではありません。その土地の文化や背景、環境をデザイン的な手法を用いてブラッシュアップさせ、新たな文化を表出させるんです。竹というのは、フィリピンのひとびとにとっては「貧しさ」の象徴です。ひょっとしたら忘れたい記憶かもしれません。でもそれを完全に排除してしまうと、フィリピンの文化的なものや精神に関わる部分が分断される可能性がある。だからうまくコネクトしていかないと。

谷山直義 Naoyoshi Taniyama
1973年名古屋生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。スーパーポテトに入社後、グランドハイアットなど、海外を含むホテルのインテリアデザインを担当する。16年の在籍ののち独立し、2011年NAO Taniyama & Associatesを設立。グランドハイアット大連、グランドハイアットマニラなどのホテルをはじめ、レストランやブティックなど商環境のデザインを手がける。http://www.nt-a.jp

撮影/栗原 諭(特記をのぞく)

「グランドハイアット マニラ」。ラウンジでは竹を格子状に編んで重ね、透け感のあるパーティションに。
「グランドハイアット マニラ」。エントランスの壁面装飾は、直線と曲線で構成されるトライバルタトゥーをモチーフとした。土着の信仰に基づいた柄だそうだ。

「グランドハイアット マニラ」。左/ラウンジでは竹を格子状に編んで重ね、透け感のあるパーティションに。右/エントランスの壁面装飾は、直線と曲線で構成されるトライバルタトゥーをモチーフとした。土着の信仰に基づいた柄だそうだ。写真提供/NAO Taniyama & Associates

「グランドハイアット マニラ」。上/ラウンジでは竹を格子状に編んで重ね、透け感のあるパーティションに。下/エントランスの壁面装飾は、直線と曲線で構成されるトライバルタトゥーをモチーフとした。土着の信仰に基づいた柄だそうだ。写真提供/NAO Taniyama & Associates

ローカル性を空間デザインに取り込む

― 海外ではいつもそのような進め方ですか?

谷山:中国・大連のグランドハイアットのオールデイダイニング「SHOW KITCHEN」でも同様のことがありました。ここは目の前がビーチなのですが、以前は手こぎのボートやスワンボートが浮かんでいて、せっかくの景色が台なしになっていました。プレゼンテーションでは、レストランの提案をすべきだったのですが、ビーチの使い方について語ったんです。ダイニングからテラス、そしてビーチとつなげることで、ホテルの宿泊客は景色を堪能できるし、ビーチに遊びに来た人をホテルへ誘導することもできる、と。

― ダイニングとビーチをつなぐ素材として何を選ばれましたか?

谷山:1階のオールデイダイニング「SHOW KITCHEN」のインテリアでは、アウトドア用の家具で多用されるビニル製のストローです。中国の竹かごをつくる職人さんに編んでもらい、それで構造の柱を囲って中に照明を入れました。2階の焼き肉レストラン「SMOKE HOUSE」には、現場で使われる鋼管足場にメッキ加工を施して組み上げました。ビーチからの目印となり、また夜にはライトアップするのでトーチ的な役割を果たすんです。

― 鋼管足場をラグジュアリーホテルに!

谷山:中国は、日本の高度経済成長期のように建設ラッシュで、とてもエネルギッシュ。足場には架構の美しさや力強さがあって、いまの中国を象徴するかのようでした。それをオーナーに、それこそ力説しました。

「グランドハイアット大連」1階のオールデイダイニング「SHOW KITCHEN」。竹かごのような光柱が林立し、テラスもほんのり照らされる。その光がビーチとホテルをコネクトし、ひとびとの行き来をうながす。「地元になじみのある素材を変換して使うことで、別次元へと導くんです」。写真/Nacasa & Partners

「グランドハイアット大連」1階のオールデイダイニング「SHOW KITCHEN」。竹かごのような光柱が林立し、テラスもほんのり照らされる。その光がビーチとホテルをコネクトし、ひとびとの行き来をうながす。「地元になじみのある素材を変換して使うことで、別次元へと導くんです」。写真/Nacasa & Partners

「グランドハイアット大連」2階の焼き肉店「SMOKE HOUSE」。メッキ加工によりつややかに光る鋼管足場がゆるやかに客の領域をつくる。屋上テラスにも同様の構築物があり、ビーチからのランドマークともなっている。「発展する中国のエネルギッシュさを鋼管足場で表現しました」。写真/Nacasa & Partners

「グランドハイアット大連」2階の焼き肉店「SMOKE HOUSE」。メッキ加工によりつややかに光る鋼管足場がゆるやかに客の領域をつくる。屋上テラスにも同様の構築物があり、ビーチからのランドマークともなっている。「発展する中国のエネルギッシュさを鋼管足場で表現しました」。写真/Nacasa & Partners

かたち・デザインは本質から生まれる

― ふだんの仕事で信条にしていることはありますか?

谷山:道理に合わないと思ったら、まったく別の観点から考察を進めます。クライアントからの要望と異なるようなことを提案するときもあります。たとえばエクステリアを担当した「虎ノ門ヒルズ」のオーバル広場。もともとの計画ではブランコやトランポリンなど、いろいろな遊具が置いてあったんですが、それでは子どもはドキドキしない。「子ども=遊具」という図式に疑問を感じたんです。子どもの頃の感覚をみなさんは忘れてしまったのですか? といった、ある種の憤りもありました。だから遊具をすべてなくして、エリア全体の地面をデザインしました。アイスクリームをスプーンですくったような形状に造成して、全面を芝生でおおいました。そこに白い線が引いてあれば、その上を歩くし、斜面では走ったり転がったり、子どもにはたくましい創造力と想像力がありますから、それを削ぐようなことはしたくないと考えたんです。

「虎ノ門ヒルズ」ではアトリウムのインテリアデザインと、広場のランドスケープを担当。子どものイマジネーションを大切に、すでに計画されていた遊具の設置をはねつけ、すり鉢状に造成して芝生を張った。広い場所ができたことから、いまではイベントも活発に行われているという。写真/エスエス

「虎ノ門ヒルズ」ではアトリウムのインテリアデザインと、広場のランドスケープを担当。子どものイマジネーションを大切に、すでに計画されていた遊具の設置をはねつけ、すり鉢状に造成して芝生を張った。広い場所ができたことから、いまではイベントも活発に行われているという。写真/エスエス

― スーパーポテト時代には杉本貴志さんから教わったことも多いのではないですか?

谷山:スーパーポテトには16年在籍していましたが、そのときに杉本貴志さんに教えられたことも身体に染み込んでいます。よく「空間をつくれ!」といわれたもんです。デコレーションではないんだと。それを肝に銘じて、仕事に臨んでいます。

(TALK #20 に続く)

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