sangetsu

forBusiness

sangetsu

forBusiness
  • 0
  • カット
    サンプル

Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #18

温故知新を大切にした空間づくり
株式会社 夏水組 坂田 夏水

TALK #18 温故知新を大切にした空間づくり

夏水組が運営する「Decor Interior Tokyo」でのインタビュー風景(特記以外の写真:鬼澤礼門)

子育てとのバランスを図りながら“理想の空間”をつくり上げていく「夏水組」。古き良きものを大切にするリノベーションや女性の視点によるインテリアデザインが注目されている。その理由ともいうべきモノづくりのこだわりとアイデアの原点などクリエイションの秘話を伺った。

伝統的なタイル柄をホワイト、ブルー、グレーのスタイリッシュな色調で仕上げたクッションフロア「French AntiqueTile」

― 今回、サンゲツとタイル柄のクッションフロアも開発されていますが、モチーフを選んだきっかけや、使い方のコツなど教えてください。

坂田:タイル床が欲しいというお客さまが多いのですが、日本の住宅に石やセメントのタイルを貼るのは難しいですし、コストもかかります。クッションフロアだと魅力的なコストで、しかも貼り替えも簡単ですから、柄物ならタイル柄がいいなとずっと思っていました。私自身が欲しいということもありましたが、実はお店でもタイル柄が一番売れているんです。そんな流れもあり、前回「サンゲツ」と一緒に開発させていただいた、ポルトガルの伝統的な柄、アズレージョタイルに続いて、今回のタイル柄は世界的に人気のある王道柄にしました。パリやロンドン、NYの街歩きをしていると、この柄をたくさん見つけることができるんですよ。例えば、古いカフェやレストラン。元々はアラビックな草をモチーフにつくられた柄なんですが、いろんな色のものや、ちょっとアレンジされたものが世界中で使われているんです。お部屋でのフロア使いはもちろん、タイル柄10枚分くらいでカットして、キッチンマットとして使うなど工夫してもらえたらなと思っています。

― 開発する際、はじめに実物のタイルを製作したと伺っています。

坂田:そうなんです。欲しいぴったりの柄で欲しい色のものって、実物がないじゃないですか(笑)。今回は微妙な色など、タイル独特の風合いを出したかったので、タイルにステンシルで柄を描いてデータ化しました。昔からタイルはステンシルの技法を使って、手で色付けされているものなので、同じようにステンシルで製作することで、モヤモヤっとエッジのラインがはみ出ていたり、味が出るんです。最初からイラストレーターのデータだと均質な色になりますので、実際の風合いが感じられる手法にしました。微妙な目地の組み合わせや影も生かしていますので、とてもリアルですよ。

坂田 夏水

坂田 夏水 Natsumi Sakata
1980年福岡県生まれ。2004年武蔵野美術大学建築学科卒業後、アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社「夏水組」を設立。スクラップアンドビルドではなく、古き良きものを大切にした空間づくりで注目を集めている。

実物のタイルにステンシルで柄を描き、タイルを並べた時の微妙な目地のずれや影を生かしてデータ化することで独特の風合いを出している。
実物のタイルにステンシルで柄を描き、タイルを並べた時の微妙な目地のずれや影を生かしてデータ化することで独特の風合いを出している。

実物のタイルにステンシルで柄を描き、タイルを並べた時の微妙な目地のずれや影を生かしてデータ化することで独特の風合いを出している

― モチーフのアイデアはご自身の体験や記憶から生まれるのでしょうか?

坂田:お客さまから見せていただいた写真、求められた材料、それと私自身が海外に行って目にしたものでいいなと思ったものなど、経験と蓄積された記憶などから生まれることが多いですね。海外で歩いていて、いいなと思ったら立ち止まって写真を撮るため、足元が写り込んだ写真や外壁の写真がいっぱいあります。柄や色が大好きだったりしますので、床の模様は大体ありますよ。

― タイル柄の原案となる資料があるそうですね。

坂田:1877年発刊の世界中の柄集。ロンドンでつくられたものなのですが、当時のロンドンの人が思う、世界中の柄集なんです。アート専門の古本屋さんで見つけた時は、社会人になってすぐの頃でしたので、その時の私にとってはかなり高価だったのですが、ひと目惚れして購入しました。その時からずっと大切にしています。内容は国別に分けられていて、例えば、エジプシャンだとエジプトの色使いと柄というのをまとめて見せています。シノワとジャポネのミックスのページもありますが、1877年当時のロンドンの人が思う、ジャポネってこんなだよねっていうことで描かれています。でも、今の感覚だとちょっと違うなというところもあり、それがまたいいんです(笑)。タイルの柄も当時のイメージで描かれていますが、モロッコあたりで生まれて、ヨーロッパで普及しているものです。柄がフロアやタイル、ステンドグラスなどに形を変えて何十年、何百年と街に文化として残っていく、その再現のような本になっています。印刷は版画で色の数だけ版があって、刷っているものですので、相当手の掛かる印刷技法でつくられていると思いますよ。

坂田さんのアイデア源でもある、19世紀のロンドンでつくられた世界の柄集、「POLYCHROMATIC ORNAMENT」(1877年発刊)。
坂田さんのアイデア源でもある、19世紀のロンドンでつくられた世界の柄集、「POLYCHROMATIC ORNAMENT」(1877年発刊)。

坂田さんのアイデア源でもある、19世紀のロンドンでつくられた世界の柄集、「POLYCHROMATIC ORNAMENT」(1877年発刊)

― 女性の心に響くタイル柄のような提案を数多くされていますが、子育て世代で『夏水組』のファンの方がたくさんいらっしゃいます。東京に戻られて、お仕事が忙しくなる一方だと思いますが、子育てとのワークバランスはどのように工夫されていますか?

坂田:子育てと仕事の両立は今も課題というか、試行錯誤しながら進めています。社長業ですので、誰も保護してくれないといいますか産休育休はないんです。産んでから気づいたのですが...(笑)。育てる環境がそこから違いましたので、子供が0歳の頃から現場を見せたり、オフィスに連れて来たりしていました。スタッフと触れ合わせて、時には端っこに座らせてミーティングに参加させたり、大人の世界を小さな頃から見せていますので、まだ小学生ですが大人との接し方を学んでくれています。そういう意味では社会人になる時や人間関係などで役に立つかなと思っていますが、子どもは母を見ていますので、お母さんがスタッフに言っていることや、やっていることを同じように真似されます(笑)。子どもは鏡ですので気をつけなきゃなと思うこともあります。

― 母親が働いている姿を近くで見せるのはいいかもしれませんね。

坂田:日本では子どもを連れて仕事に行くのは、やっぱり受け入れられない社会じゃないですか。でも、そういう人がどんどん増えて、社会が認めてくれるようになって、それが当たり前のようになれば、女性はもっと楽に子どもの教育をちゃんとやりながら仕事も進められると思います。私は仕事場になるべく子どもを連れて行きたいと思っていますし、連れて来られる立場になっても、喜んで!と言いたい。子育てしているお母さんも雇っていますので、子どもを打ち合わせに連れて来る時はスタッフで一緒に見ています。子どもを育てたいと思うお母さん予備軍のスタッフたちにとっても、そういうふうに仕事ができるならと思えると、またいいんじゃないかなと思っています。

― いいお手本が近くにいると両立のイメージが湧きますよね。「夏水組」さんが手がけていらっしゃる街づくりにの考え方、連鎖反応にも繋がりますね。子育てをしながら、今後チャレンジしたい活動があれば教えてください。

坂田:15年間くらい仕事を続けてきた中で、特に洋柄を求められることが多かったため、とにかく輸入のものや、海外から入ってきた洋柄をお客さまにすすめてきました。もちろん、洋柄には美しさや良さがありますのでお客さまが求める気持ちも分かります。ただ、和柄だってストーリーと良さがあるのに無視してきちゃったなと、今になって思っています。壁紙にせよ、色にせよ、和の色、和の柄って歴史が深く、綺麗なんですよね。今、日本の中で美しさがちゃんと分かる人たちを増やす活動として、襖紙をつくって新しい柄の提案をしています。今まで、日本の柄の商材は若い人が使いたいものがなかなかなかったのですが、つくることによって、こういう和風のものだったら使いたいという人が少しずつ増えてきています。これから、こういった活動をもっと広めていきたいなと思っています。

Designer's TALK一覧へ