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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #14

驚きや喜びのあるホテル空間をつくる
the range design 寶田 陵

TALK #14 驚きや喜びのあるホテル空間をつくる

東京・京橋の事務所にて(特記以外の写真:栗原 論)

寶田陵さんは「グランベルホテル」シリーズをはじめ、ホテルの設計を多く手がけている。
勉強の目的で、デザインで有名な国内外のホテルに泊まり、客室のスケッチを欠かさない。
スケッチのためだけにホテルに泊まりに行くこともしばしばだ。
寶田さんは客に驚きや喜びを与えられるホテル空間をつくりたいと考え、それを可能にする素材の開発にも興味を示す。

― コーポラティブハウスの設計経験が寶田さんに大きな影響を与えたというお話から、「新宿グランベルホテル」が思い浮かびました。

寶田:そうですね。あのホテルはコーポラティブハウスの設計手法の延長でつくったと言えるかもしれません。380室ある客室はスタンダード、ロフト、エグゼクティブ、スイートの4カテゴリ28種類のバリエーションがあり、プランやインテリアがそれぞれ異なります。

立地が新宿の歌舞伎町なので「アジアのNEXT ARTIST×HOTEL」をテーマとして、日本を含むアジア5カ国から33人のデザイナーやアーティストに参加してもらいました。コーポラティブハウスの設計で培った調整力がなければ、たくさんの人のアイデアを活かしてまとめることもできなかったでしょう。歌舞伎町のイメージをアーティスティックに捉え、デザインはヒップ、エッジ、官能的をキーワードにしています。

寶田 陵

寶田 陵 Ryo Takarada
1971年東京都生まれ。1993年日本大学理工学部海洋建築工学科卒業後、ゼネコン設計部や設計事務所を経て、2000年〜都市デザインシステム、2009年〜UDS企画・デザイン事業部。2016年the range designを設立

「新宿グランベルホテル」はUDS在籍時に設計した。一番人気というザ・リゾートスイートは、イタリアのライフスタイルブランド「DIESEL」のホームコレクションをコーディネート。最上階の17階に1室のみある(写真:Nacasa & Partners)

「新宿グランベルホテル」はUDS在籍時に設計した。一番人気というザ・リゾートスイートは、イタリアのライフスタイルブランド「DIESEL」のホームコレクションをコーディネート。最上階の17階に1室のみある(写真:Nacasa & Partners)

― ビジネスホテルの分野で客室の選択肢が豊富というのは、日本では珍しいですよね。

寶田:手間が増えてコストがかさむというイメージがあるので、施工会社の協力は不可欠ですが、建築設計と内装設計がはっきり区分されている業界の分業体制がハードルを高くしているように思います。

このプロジェクトで僕は建築全体とインテリアの一部を設計し、自分が設計しないインテリアもマネジメントを担当して、インテリア側から建築に及ぶ要望が出てきたら、建築側を動かして調整していました。たとえばインテリアのこの見せ場にはこういう素材を使いたい、けれども現状の予算では難しいというとき、極端な場合は外装材のランクを落として建築の予算を削減し、そのぶんをインテリアに回すというふうに。分業体制を超えて、すべてに関わっていると、このようなことができます。

「新宿グランベルホテル」のスーペリアダブルと、大きなトップライトがあるザ・ペントハウススイート(写真:Nacasa & Partners)
「新宿グランベルホテル」のスーペリアダブルと、大きなトップライトがあるザ・ペントハウススイート(写真:Nacasa & Partners)

「新宿グランベルホテル」のスーペリアダブルと、大きなトップライトがあるザ・ペントハウススイート(写真:Nacasa & Partners)

― 建築もインテリアも両方ともというのは、かなり大変ではありませんか?

寶田:大変ですが、やり甲斐がありますし、クライアントからそこまで任せてもらえることはありがたい。

グランベルホテルでは建築やインテリアの設計だけではなく、客室に置く小物選びなどもやっています。新宿では音楽も。ホテルのイメージに合うものを日本と韓国のレーベルから20曲選びました。宿泊客は無料で聴けます。

― 音楽好きな寶田さんらしい。それにしても、建築設計から選曲までとは。

寶田:音楽のないホテルは寂しいでしょ。「ロイヤルパークホテル高松」のリノベーションプロジェクトでは、イギリスのフレグランスブランド「ジョー マローン ロンドン」の香りをパブリックスペースに取り入れました。次に手がけるホテルでは香りも選びたいと考えていたら、外国人向けの高級賃貸マンションを見学したときにその香りに巡り合って。考えていると見つかるのは、偶然ではなく必然ということなのでしょう。

― 高松のホテルはどのようなリノベーションプロジェクトだったのですか?

寶田:1980年代に竣工した建物で、内装デザインは当時流行していたニューヨークのアールデコ調。それを活かしたいという要望でした。今の時代は地域に根差すホテルが主流ですから、アールデコ調のデザインを活かしつつ、高松を感じられる要素を加えました。たとえば客室の壁面収納には、テレビも鏡台も荷物置き場もズボンプレッサーもすべて収まり、日本らしく機能的です。

「ロイヤルパークホテル高松」の客室の例。松の盆栽が高松の特産であることから、床のカーペットは松をイメージしたグラフィック。ペン立ては同じく高松特産の庵治石(写真:矢野紀行)

「ロイヤルパークホテル高松」の客室の例。松の盆栽が高松の特産であることから、床のカーペットは松をイメージしたグラフィック。ペン立ては同じく高松特産の庵治石(写真:矢野紀行)

― 日本的な機能美の表現には京都グランベルホテルでも挑んでいましたね。

寶田:ロビーのシャンデリアは既存のものを一度分解して、ハーフミラーのアクリルをかぶせて改造しました。床は以前のままですが、木パネルの壁や家具は一新して、以前の雰囲気とはがらりと変わったと思います。また、宿泊客向けのクラブラウンジは新設したものです。

「ロイヤルパークホテル高松」のロビーと新設したクラブラウンジ。もとのニューヨークテイストのデザインと高松らしさの融合を目指した(写真:矢野紀行)
「ロイヤルパークホテル高松」のロビーと新設したクラブラウンジ。もとのニューヨークテイストのデザインと高松らしさの融合を目指した(写真:矢野紀行)

「ロイヤルパークホテル高松」のロビーと新設したクラブラウンジ。もとのニューヨークテイストのデザインと高松らしさの融合を目指した(写真:矢野紀行)

遊び心のある素材の使い方

― リニューアルといえば、2006年のオープン時に設計した渋谷と赤坂のグランベルホテルの改修設計も寶田さんが手がけていますね。

寶田:渋谷では客室の一つをこのように変えました。スイッチを入れると、壁にランプなどのシルエットが浮かび上がります。

「渋谷グランベルホテル」のビジネススイートは光の部屋。ベッドのヘッドボード型の光の装飾はナイトランプの役割も果たす(写真:Nacasa & Partners)
「渋谷グランベルホテル」のビジネススイートは光の部屋。ベッドのヘッドボード型の光の装飾はナイトランプの役割も果たす(写真:Nacasa & Partners)

「渋谷グランベルホテル」のビジネススイートは光の部屋。ベッドのヘッドボード型の光の装飾はナイトランプの役割も果たす(写真:Nacasa & Partners)

― 幻想的ですね! 壁紙の裏側に照明を仕込んだのですか?

寶田:そうです。だから壁紙が透ける必要があり、たくさんのサンプルを取り寄せて実験しました。このときほど壁紙を見比べたことはありません(笑)。ふわりと光る感じを壁の平面でいかに表現できるか、そのディテールを考えるのに苦労しました。

― 特殊な壁紙を使っているのでしょうか?

寶田:いいえ、ごく普通の不燃のビニルクロスです。

― 着想のきっかけは?

寶田:このリノベーションプロジェクトでは、空間デザイナーの小野直紀さんとプロダクトデザイナーの山本侑樹さんによるデザインスタジオ「YOY(ヨイ)」とコラボレーションしました。彼らの作品に「椅子の絵が描かれたキャンバス型の椅子」があるんです。椅子のフレームを、椅子の絵をプリントした伸縮性の高い布のキャンバスで覆ったもので、一見平面だけど実際に座ることができる。

ホテルでは普通、機能とアートは別のものとして扱います。でも、彼らのアイデアを活かして機能とアートを融合させたらおもしろいだろうと思い、声をかけました。先ほどの光の部屋のほか、キャンバスの部屋や、シャンデリアとして機能する大きなカーテンの部屋などがあります。

「渋谷グランベルホテル」のフェミニンスイートはキャンバスの部屋で、椅子や照明、クローゼットなどが描かれたキャンバスを壁面全体にレイアウト。すべてのキャンバスが実際の家具やプロダクトとして機能し、たとえばクローゼットは扉を開け、中に衣類を掛けることができる(写真:Nacasa & Partners)
「渋谷グランベルホテル」のフェミニンスイートはキャンバスの部屋で、椅子や照明、クローゼットなどが描かれたキャンバスを壁面全体にレイアウト。すべてのキャンバスが実際の家具やプロダクトとして機能し、たとえばクローゼットは扉を開け、中に衣類を掛けることができる(写真:Nacasa & Partners)

「渋谷グランベルホテル」のフェミニンスイートはキャンバスの部屋で、椅子や照明、クローゼットなどが描かれたキャンバスを壁面全体にレイアウト。
すべてのキャンバスが実際の家具やプロダクトとして機能し、たとえばクローゼットは扉を開け、中に衣類を掛けることができる(写真:Nacasa & Partners)

「渋谷グランベルホテル」のスーペリアツインでは、大きな窓を覆うカーテンがシャンデリアのように光り、天井の高い部屋全体を明るく照らす。壁面にはポスターをモチーフにした照明や額縁をレイアウト(写真:Nacasa & Partners)

「渋谷グランベルホテル」のスーペリアツインでは、大きな窓を覆うカーテンがシャンデリアのように光り、天井の高い部屋全体を明るく照らす。壁面にはポスターをモチーフにした照明や額縁をレイアウト(写真:Nacasa & Partners)

― ところで、寶田さんは国内外のいろいろなホテルに泊まっていると聞きました。

寶田:デザインで有名なホテルはだいたい行っていて、客室をスケッチしています(とスケッチブックを見せる)。

寶田さんのスケッチブック。この見開きに描かれた客室は、左は上海のザ・プリ、右はカリフォルニア州パームスプリングスのエースホテル。愛用の筆記具入れは、実はメイクブラシケース

寶田さんのスケッチブック。この見開きに描かれた客室は、左は上海のザ・プリ、右はカリフォルニア州パームスプリングスのエースホテル。愛用の筆記具入れは、実はメイクブラシケース

― すごい! 客室のディテールが事細かに描いてある。

寶田:「渋谷グランベルホテル」を設計するとき、ホテルのことが全くわからなかったので、日建スペースデザインの浦一也さんの本や、旅しながらホテルをスケッチした元祖の妹尾河童さんの本などを見て、勉強のために真似したのが始まりです。自分の記録だから、きれいに描くことは重視していません。うわ、このホテルいい! と思うと4〜5時間集中して描き、気分がのらないと2時間くらいで終了します。

― 人気のエースホテルのスケッチがあっさりしているのは、案外のらなかったということなんですね(笑)。寶田さんが今一番気に入っているホテルを教えてください。

寶田:今が旬のホテルと一番いいホテルはまた別で、僕が一番いいと思うのは上海の「The PuLi Hotel and Spa(ザ プリ ホテル アンド スパ)」というアーバンリゾートホテルです。デザインがスタイリッシュでかっこいいだけではなく、外の景色を見ながら入浴できるなど、プランもよく考えられている。一番という意味では、これを超えるホテルは未だに出てきません。

― ほかには?

寶田:最近有名になりましたが、ニューヨークの「1 Hotel Brooklyn Bridge(ワンホテル ブルックリン ブリッジ)」もいい。海外のホテルは素材の使い方が勉強になります。ここになぜこの素材を? と思う使い方が見られておもしろい。ワンホテルの内装も日本では考えられないような素材使いで、たとえば客室のベッドのヘッドボードはレザーを角波鋼板のようにしている。このアイデアはちょっと思いつきませんね。

― 好きな素材はありますか?

寶田:何よりこれが好き、というのはないかもしれません。建築や空間のコンセプトありきで、素材を探し、絞り込んでいく。出会った素材によって空間の考え方が変わることもあります。

ホテルや商業施設は新鮮さが大事だから、完成したときにできるだけ最新であることを常に目指しています。ただ、設計から竣工までにはそれなりの時間がかかり、その間に素材はどんどん進化する。そのために設計変更することもあります。

上海の「The PuLi Hotel and Spa」は2009年に開業(写真:寶田 陵)

上海の「The PuLi Hotel and Spa」は2009年に開業(写真:寶田 陵)

ニューヨークの「1 Hotel Brooklyn Bridge」は素材の使い方がおもしろい(写真:寶田 陵)

ニューヨークの「1 Hotel Brooklyn Bridge」は素材の使い方がおもしろい(写真:寶田 陵)

― 素材に対する要望などはありますか?

寶田:最近発表される素材は時代を反映して、環境に配慮したものが多いですよね。ただ、僕は車なら昔のガソリンくさい車が好きで、最近の車は電子制御されて何だか少し物足りないと思っている。建築やインテリアの素材も同様に、遊び心がなくなり、無難なものばかりになっている気がします。

ホテルの設計を通して、この素材はこういうふうに使えたらおもしろいのに、お客さんも驚いて喜んでくれるだろう、と思うことが多々あり、利用者を喜ばせることを開発の出発点にした素材を、メーカーとデザイナーが協働して生み出せないか、といつも考えています。

― 確かに渋谷グランベルホテルの客室の、壁を光らせるための壁紙というアイデアは、メーカーからは出てこないものです。

寶田:逆に、壁紙の透過性を高めるにはどうしたらいいかというアイデアは、デザイナーからは出てきません。それは技術をもっているメーカーからしか出てこない。だからメーカーと、実際に空間をつくるデザイナーとのコラボレーションは大事だと思う。そういう観点から、サンゲツさんの壁紙デザインアワードは画期的で有意義だと思っています。

サンゲツからのお知らせ

今回、取材させていただいた寶田さんが審査員を務める「第二回サンゲツ壁紙デザインアワード」が開催中です。

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