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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #20

素材にひそむ力の強さを拠り所にして
NAO Taniyama & Associates 谷山直義

TALK #20 素材にひそむ力の強さを拠り所にして

プランはざっくり描くと谷山さん。「細かいところまですべてを自分で描いてしまったら、スタッフのデザイナーとしての思考力が止まってしまう。口を開けて待つ状態になるからです。それはスーパーポテトの伝統かもしれません」。

谷山直義 Naoyoshi Taniyama
1973年名古屋生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。スーパーポテトに入社後、グランドハイアットなど、海外を含むホテルのインテリアデザインを担当する。16年の在籍ののち独立し、2011年NAO Taniyama & Associatesを設立。グランドハイアット大連、グランドハイアットマニラなどのホテルをはじめ、レストランやブティックなど商環境のデザインを手がける。http://www.nt-a.jp

撮影/栗原 諭(特記をのぞく)

素材の存在と空間のバランス。NAO Taniyama & Associatesの谷山直義さんは、素材には固有の強さがあるという。それは重さや体積といった物理的なことではなく、素材から発されるエネルギーのようなもの。それをくみ取り、よりよい場面に納めている。

かたちを求めるのではなく、素材を信じる

― これまでに使われてきた素材で印象深いものは何ですか?

谷山:石には思い入れがありますね。スーパーポテトに入社したてのころ、彫刻家イサム・ノグチの作品に石工として関わった和泉正敏さんの「石のアトリエ」に長期間滞在したことがあります。プロジェクトに使う石の選定が目的だったのですが、こっそり夜に懐中電灯を手に石を探して、使いたいところにチョークで線を引いておくんです。そうして翌朝和泉さんに見てもらう。すると「谷山くん、石が嫌がっている」とおっしゃって。「こっちの方がいいと思うよ」と連れて行かれると、それはなるほどという石でした。ぼくは実現したい形が頭にあって、それを石に落とし込もうとしていたんですが、「石は置いた瞬間に空間が変容していくから、バランスを取る必要はないんだよ」と諭されました。そういう日々だったんです。とても贅沢でしょう?

谷山直義 Naoyoshi Taniyama
1973年名古屋生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。スーパーポテトに入社後、グランドハイアットなど、海外を含むホテルのインテリアデザインを担当する。16年の在籍ののち独立し、2011年NAO Taniyama & Associatesを設立。グランドハイアット大連、グランドハイアットマニラなどのホテルをはじめ、レストランやブティックなど商環境のデザインを手がける。http://www.nt-a.jp

撮影/栗原 諭(特記をのぞく)

空間で繰り広げられる現象に集中できるように

― 谷山さんは、無垢の木や石など、自然素材を多用されるイメージを抱いていました。

谷山:インテリアデザインはデコレーションではありません。そこでどういう現象が起こるのか、訪れたひとの心にどう触れるか、そういうことを大事にしています。

銀座一丁目にあるフレンチの「DOMINIQUE BOUCHET TOKYO」では、料理に集中してもらいたいというシェフのドミニクさんの考えを形にしました。店内に音楽は流れていませんし、お皿の上に食べられるもの以外は載せない主義。でも内装に関しては、パリの邸宅のようにしてほしいというんです。そこでぼくは、例に漏れず「違うでしょう?」って(笑)。料理にフォーカスする空間として、パーティションを6mm厚のフェルトでくるみました。邸宅らしい味付けとして、下地にモールディングのような凹凸をつけて、フェルトがその形状を拾うようにしたんです。パーティションはレイアウト自由な可動式ですし、フェルトは音の反射を防ぐので、周囲から隔離してくれます。

フレンチレストラン「DOMINIQUE BOUCHET TOKYO」。天井にレールが仕込まれていて、フェルト張りのパーティションで自由にレイアウトができる。照明もジュエリーショップのショーケースで使われるピンスポットで、空間に合わせて設置する。写真/Masahiro GODA

フレンチレストラン「DOMINIQUE BOUCHET TOKYO」。天井にレールが仕込まれていて、フェルト張りのパーティションで自由にレイアウトができる。照明もジュエリーショップのショーケースで使われるピンスポットで、空間に合わせて設置する。写真/Masahiro GODA

日常的なものを抽象化してインパクトを

― 数々の素材を扱う上で、インプットも必要になりますよね。

谷山:素材とは異なりますが、アートに接すると刺激され、気持ちがざわざわします。

六本木のグランドハイアット東京では、レイチェル・ホワイトリードというアーティストの作品をレファレンスとしました。宴会場のデザインだったのですが、ここでもレジデンスのようにとリクエストされました。でも六本木という立地もあって、新しいことを打ち出さなければ意味がないと話をしたんですよ。

ホワイトリードは空間やものを反転させる作品をつくる方で、たとえば暖炉のまわりを型枠で囲んで、そこにコンクリートを流し込んで、固まったら型枠をはずして作品にするといったように、ネガとポジで対象物を浮かび上がらせるんです。ぼくの場合は、和家具の引き出しとプラスターを組み合わせました。それをバーの空間に積み上げたんです。レジデンスをイメージで捉えるのではなく、キーワードとすることで抽象化、そしてアート化された環境を生み出したというわけです。

「ハイアット・リージェンシー・ワンジン」の和食レストラン「旬八」の個室。壁面には、茶室ならではの窓の意匠が散りばめられた。光天井と窓からの光を受けて、凹部の陰影を濃くする。写真/Jonathan Leijonhufvud SWE

「ハイアット・リージェンシー・ワンジン」の和食レストラン「旬八」の個室。壁面には、茶室ならではの窓の意匠が散りばめられた。光天井と窓からの光を受けて、凹部の陰影を濃くする。写真/Jonathan Leijonhufvud SWE

中国・北京の「ハイアット・リージェンシー・ワンジン」でも同様の手法を使いました。ロビーの吹抜けに隣接する和食レストラン「旬八」で、茶室で点景となる下地窓や円窓、障子ごと壁面を反転させています。和を記号として捉えられるような表現で、間接的に和の雰囲気を空間にまとわせたのです。ここでは、竹を縦に割ったり、丸竹を縄で縛って格子に組んだり、中国でなじみのある竹も多用しています。エントランスでも、竹にメッキを施して、あたかも竹林のように角度をつけて並べました。曖昧な境界によってロビーの大きな空間から「旬八」へと誘導するというイメージです。

竹のエントランスをはさんで「The Music Bar」があるのですが、ここはその名の通りミュージックがテーマです。といってもチャイニーズポップではなく、昔から音楽をこよなく愛しているひとびとに反応してもらいたいと思って、ノスタルジーを感じさせるデザインにしました。コの字形カウンターの腰は、レコードの時代の、豪華なステレオセットの構成要素を木彫や鍛金で表現。照明は昔のスタンドマイクがモチーフで、あえてカウンターの天板に光源を映り込ませて、カウンター上で展開するパフォーマンスに意識が向くようにしています。

― 陰影が深く、密度の濃い空間になっていますね。照度が抑えられているので、音楽やドリンクに集中できそうです。

「ハイアット・リージェンシー・ワンジン」。エントランス。竹の中央部のみにメッキして、林立させた。その向こうは「The Music Bar」の入り口。写真/Jonathan Leijonhufvud SWE
「ハイアット・リージェンシー・ワンジン」。「The Music Bar」。木や石、鉄といった本物の素材づかいで、本物の音楽を聴く場をつくり出した。写真/Jonathan Leijonhufvud SWE

「ハイアット・リージェンシー・ワンジン」。上/エントランス。竹の中央部のみにメッキして、林立させた。その向こうは「The Music Bar」の入り口。下/「The Music Bar」。木や石、鉄といった本物の素材づかいで、本物の音楽を聴く場をつくり出した。写真/Jonathan Leijonhufvud SWE

空間の本質を見据えた素材選び

― 素材を選ぶときに注意していることはありますか?

谷山:「強い」か「弱い」かを考えます。たんにがつんと強いときもあるし、出汁(だし)のきいたような強さもあり、一概にはいえないのですが、ぼくのなかには規準があるんです。時計でいうと、2000万円の高級時計か、師匠に譲り受けた時計、どちらに強さがあるかというと、ぼくにとっては後者です。でも価値観はいろいろ、前者を選ぶひともいるでしょう。

デザインするときには頭の中でシミュレーションします。ひとつのことでもいろんな切り口があって、大量の刃(素材)を投入するんです。そこでどれが強さを発揮するのか、トーナメント戦のように戦わせる。準決勝、決勝までいくと、強者揃い。どれがいまつくろうとしている空間の本質に近いかという観点でジャッジして優勝者を決めます。

とはいえ、最近悩ましいのは、技術の向上で本物とフェイクの差が縮まっていることです。以前は、自身の手がける空間に使うのは、本物、木なら無垢のみだったんです。もし予算上難しければ、木以外のもので模索する。でも、いまはプリントのクオリティがとてつもなく上がっていて、リアルとは別の領域にありますね。それをまったく新しい素材として捉えるかどうか……。今後の課題です。

― 今年の「国際ホテル・レストラン・ショー」で手がけられた、サンゲツのブースでは、和紙、カーペット、突き板のシートを使われていましたね。

谷山:和紙工場を見学して、和紙の加飾の幅広さに得ることがありました。カーペットは立体的な表現の組み合わせで、もっと豊かな表情にできること。そして突き板なのに不燃にできて、しかも壁紙職人が貼れるシートにも驚きました。Web上、カタログだけでは感知できない素材の力。その可能性、サンゲツさんの対応力を見せつけられました。

「国際ホテル・レストラン・ショー」のサンゲツのブースで用いた和紙とカーペットのサンプル。和紙は11種類あり、色や繊維の濃淡を10段階のグラデーションで製作し、縦方向に並べてテグスで吊った。カーペットは組子の文様をベースに、ループとカットで立体的なテクスチャーをつけている。

「国際ホテル・レストラン・ショー2019」のサンゲツのブースで用いた和紙とカーペットのサンプル。和紙は11種類あり、色や繊維の濃淡を10段階のグラデーションで製作し、縦方向に並べてテグスで吊った。カーペットは組子の文様をベースに、ループとカットで立体的なテクスチャーをつけている。

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