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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #15

遠くから見ても。近くで見ても、面白い。
MIHARAYASUHIRO 三原 康裕

TALK #15 遠くから見ても。近くで見ても、面白い。

サンゲツ壁紙見本帳「2018-2020 RéServe」撮影現場でのインタビュー風景(特記以外の写真:山本 大)

人々の生活に密接する壁紙。それだけに、そのデザインはロングライフなものが求められる。しかしその一方で、それをファッション的な感覚で楽しむという機運も高まってきているのも事実だ。壁紙は自己表現の一つとしてとらえられつつある。
パリコレに参加する世界的にも有名なファッションデザイナーの三原康裕さんは、もともと美術大学でテキスタイル学を専攻。自身のコレクションでもオリジナルで製作した生地が話題になるほど、サーフェス(表面)デザインに対する造詣も深い人だ。そこでサンゲツでは今回、三原さんにデザインを依頼。今までにない新しい壁紙を提案してもらった。
壁紙とファッションという化学反応が示す新しいインテリアの可能性。それぞれの作品に隠されたコンセプトや思いを伺った。

「インダストリアル」「ヴィンテージ」というキーワードから着想を得るという三原氏のアトリエ

「インダストリアル」「ヴィンテージ」というキーワードから着想を得るという三原氏のアトリエ

― 今回、三原さんのデザインで完成した6種類の壁紙はどれもユニークですが、三原さんご自身のインテリア観はいかがでしょうか。

三原:単純に好みのテイストでいうと、ヴィンテージ。中でもインダストリアル風のヴィンテージテイストが好きですね。家具は北欧ヴィンテージが中心ですが、基本的にはシンプルです。

― 今回アトリエを拝見させていただきましたが、それとはまた違った世界観で?

三原:インダストリアル的なテイストという意味では近い部分があるかもしれませんね。僕は“工場” が好きなので、空間設計においてはそれをインスピレーションにすることが多いかもしれません。住宅としてはちょっと不向きですけれど(笑)。

― 今回サンゲツから壁紙のデザインの依頼を受けた時は、どう思われましたか?

三原:「本当に!?」って感じでした(笑)。想像もしていなかったので驚きましたね。正直言って僕は壁紙というもの自体にあまり期待していない部分がありまして…。日本で見る多くの壁紙は、これは僕の先入観かもしれませんが、最大公約数的なものが多い。個性が表現できるような特殊なものはほとんどないという印象だったんです。なんていうかな…空間が人に与える影響をできるだけ0 に近づけたものというか。そう思いつつ、サンゲツのカタログを見て結構ユニークなものも展開していると知ったとき、感心しました。面白いことにも挑戦しているんだなって。

それから改めて壁紙のデザインというものを自分なりに研究し始めたんですが、おかげでどこに行っても壁紙が気になる気になる(笑)。僕は壁は空間を隔てるための単なるサーフェイスだと思っていましたが、そうじゃない。空間演出のツールとしていかに重要であるかを認識しましたね。

三原 康裕

三原 康裕 Yasuhiro Mihara
1972年長崎県生まれ。1993年に多摩美術大学デザイン学科テキスタイル学部に入学し、1994年から独学で靴を作り始める。1996年に靴メーカーのバックアップにより「archi doom」を立ち上げ、大学卒業後の1997年に名前を「MIHARAYASUHIRO」に変更。ウエアも展開するコレクションブランドに。枠にとらわれない発想から生まれる遊び心のあるシューズや服は、海外からも常に高い注目を集めている。

“サンゲツ×MIHARAYASUHIRO” コラボレーションから生まれた壁紙。左から「SPACE SEA」「FLOWER CAMO」「KASURI WALL」(写真:大中 啓〈D-CORD〉)
“サンゲツ×MIHARAYASUHIRO” コラボレーションから生まれた壁紙。左から「SPACE SEA」「FLOWER CAMO」「KASURI WALL」(写真:大中 啓〈D-CORD〉)
“サンゲツ×MIHARAYASUHIRO” コラボレーションから生まれた壁紙。左から「SPACE SEA」「FLOWER CAMO」「KASURI WALL」(写真:大中 啓〈D-CORD〉)

“サンゲツ×MIHARAYASUHIRO” コラボレーションから生まれた壁紙。左から「SPACE SEA」「FLOWER CAMO」「KASURI WALL」(写真:大中 啓〈D-CORD〉)

― そこからデザインに落とし込むまで、どのようなプロセスだったのでしょうか。

三原:色々と試行錯誤をしましたが、結果的に今回はデザインを初めから起こすのではなく、以前に僕が作ったテキスタイルデザインから引用することにしたんです。実際に洋服のデザインとして採用したものもあるし、そうでないものもある。それぞれのデザインには僕なりのストーリーやメッセージがあって、実際に僕がひとつひとつ手作業で作ったもの。それを生地ではなく壁紙にしたらどうなるのかということに僕自身興味があったので提案させてもらいました。

― 今回は6つの壁紙が完成しましたが、元々は何種類くらいデザインがあったのですか?

三原:全部で10種類以上はあったかと思います。そこからはサンゲツの方と一緒にセレクトをしていきました。壁紙って服と違って一度選んだら長く付き合わなければいけないもの。そこはプロの方の意見も聞きながら、最終的にこの6種類を選別したんです。

― それぞれに共通するデザインのコンセプトはあるのでしょうか。

三原:シニカル、アイロニカル。そしてとても面倒くさいプロセス、でしょうか。デザインというのはそもそも設計という意味で、ある種記号的なもの。それよりもフィロソフィーやプロセスの方が重要だったりします。シニカルさやアイロニカルさは僕のデザインに必要な要素ですし、それをわざと手間のかかるプロセスで完成させることでその表情がさらに立体的になるんです。

あとは“遠目に格好がいい” ということも大事。かつて日本の火消しが着ていた“半纏(はんてん)” には背中に家紋が入っていましたが、あれは遠くから見てもそれがどの組の人たちかすぐにわかるようにデザインされていたんです。そして近くで見るとさらに細かな意匠が隠れている。僕はいつもそのことが頭にあって、テキスタイルデザインに応用している。壁紙という性質上、特に今回はそのアプローチが功を奏したんじゃないかなって思います。

― 実際に完成したものをご覧になって、いかがでしたか。

三原:生地で見たときは可愛いんだけど実際に洋服になったらあまり良くなかった。そういうのを“生地美人” って僕たちは言うんです。壁紙ってドレープや生地感が生まれる洋服と違ってとことんフラットだから想像がしにくくて、今回もそういうことになりはしないかという不安な気持ちはすごくありましたが、そんなことはなかった。想像以上にいい出来になっていて驚きましたね。

ネガティブなものをポジティブに見せるのもクリエイションの本質のひとつ。先ほどお話したシニカルさやアイロニカルさというのもネガティブな要素のひとつですが、完成したものにはそういうものをほとんど感じさせないポップさがある。自分で言うのもなんですが、意外なほどリアリティがあると感じました。

(TALK #16 に続く)

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