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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #08

風合いを感じさせる素材の使い方がある
GENETO 山中 コ~ジ 山中 悠嗣

TALK #08 風合いを感じさせる素材の使い方がある

2018年2月16日までインスタレーション「THE WALL」を展示中の「DIESEL SHIBUYA」にて。左が兄のコ~ジさん、右が弟の悠嗣さん(特記以外の写真:栗原 論)

京都と東京を拠点に活動する建築設計・デザインチームのGENETO(ジェネット)。
中心メンバーの山中コ~ジさんと山中悠嗣さんは、風合いと質感は似て非なるものと捉えている。
どのあたりが違うのか、これまでの仕事を例に話してもらった。

改修設計を手がけた京田辺の料亭「八百忠本店」の1階客室。奥の壁面に貼ったのが自作の壁紙(写真:近藤泰岳)

改修設計を手がけた京田辺の料亭「八百忠本店」の1階客室。奥の壁面に貼ったのが自作の壁紙(写真:近藤泰岳)

― GENETOの強みは自作できることで、素材の扱いにしても造形にしても、それが独自性につながっていますね。

コ~ジ:僕たちは空間をつくるとき、そこに使う素材から風合いを感じてもらいたいと思っています。見れば見るほど引き込まれるような風合いを。それを実現しようとすると、既製品をそのまま使うのではなく、既製品にどこかのタイミングで手を加えるか、自作することが多くなるんですよね。

― 風合いは、素材の質感と解釈していいですか?

コ~ジ:質感は素材がもともと持っているものであるのに対し、風合いは素材の見た目や手触りなどから人に感じさせるもの、と言ったところでしょうか。例えば「八百忠本店」で使った壁紙は質感があるとも、風合いがあるとも言える。これは僕たちの手づくりです。

山中 コ~ジ Koji Yamanaka
1979年京都生まれ。1999年芸術忍者隊設立。2000年京都精華大学デザイン学科卒業。2004年芸術忍者隊をGENETOに改名。2014年~大阪成蹊大学芸術学部准教授。京都事務所を拠点に活動

「八百忠本店」の客室に貼った壁紙の製作風景(写真:GENETO)

「八百忠本店」の客室に貼った壁紙の製作風景(写真:GENETO)

山中 悠嗣 Yuji Yamanaka
1980年京都生まれ。1999年芸術忍者隊設立。2002年京都府立大学環境デザイン学科卒業。2004年芸術忍者隊をGENETOに改名。2006年東京工業大学大学院修了。2008年~東京理科大学非常勤講師。東京事務所を拠点に活動

― 壁紙まで手づくりとは。何を原料にしたのですか?

コ~ジ:茶色の紙は段ボール、グレーの紙は新聞紙です。学生時代の紙漉き経験を思い出して自作の桁に網を張り、パルプ状に撹拌した原料を漉きましたが、それだけでは単なるきれいな紙にしかならない。試作や実験を繰り返し、最終的には5ミリくらいの厚さになるように漉いて、それが乾く前に親指の先で表面をぎゅっと押して凸凹を付けました。

これでいけると思ったのですが、親指の形や大きさは人それぞれ違い、押し方も違うので、大勢でつくると見た目が全然揃わなくて不細工でした。そこで、「これは君の仕事だ」と言って、一番若い男子スタッフに任せました。結構な量が必要だったので、水の冷たい冬季に、彼は明けても暮れても紙づくり。独りで万里の長城をつくるような思いだったかもしれません(笑)。

― スタッフの苦労が偲ばれます。そこまでしようと思った理由や背景があったのではないでしょうか?

コ~ジ:「八百忠本店」は天保年間の創業で、僕たちは1933(昭和8)年築の客室棟の客室増床や1948(昭和23)年築の厨房棟のファサード一新などの改修設計を担当しました。いずれの棟もそれまでに何度か直していて、その時々の職人の手の跡が如実に表れていました。それを美しいと感じ、僕たちも今の時代の手の跡が感じられるようにできないかと思ったのです。

2階の客室では壁面全体から天井まで、手づくりの壁紙を貼った。光があたると浮き出る陰影が美しい(写真:近藤泰岳)

2階の客室では壁面全体から天井まで、手づくりの壁紙を貼った。光があたると浮き出る陰影が美しい(写真:近藤泰岳)

― 壁紙の指の跡は、手作業の精神を受けとめ、次代につなぐ象徴というわけですね。

コ~ジ:自作の壁紙を貼った2階の客室は、合板のリブが交差する手鞠のような空間でもあります。この形態は3DCGでつくりました。また、外観を整えるために新設した焼き杉板の外壁は大和張りで、これは板を1枚おきにずらして、少し重ねて張る古くからの工法です。そこに、店のシンボルマークをレーザーカットしたステンレス板を組み込みました。この計画では他の場所でも、新旧の素材や技術を織り交ぜるように空間をつくっています。

「八百忠本店」のファサードは杉板の大和張り。店名とシンボルマークはステンレス板をレーザーカット(写真:近藤泰岳)

「八百忠本店」のファサードは杉板の大和張り。店名とシンボルマークはステンレス板をレーザーカット(写真:近藤泰岳)

― 新旧の対比によって素材の風合いが増しているようです。

コ~ジ:手づくりの壁紙は触ると優しい。素材の手触りも空間を楽しんでもらううえで大事な要素だと思っています。「THE WALL」(TALK #07参照)でも、ワープゾーンに柔らかいウレタン材を使い、硬質な鋼板から触感が突然変わるようにしたのはそのためです。

悠嗣:素材の手触りを気にするのは、僕たちが家具もつくっているからでしょうね。

あえて70点の仕上がりを狙う

― 家具もつくるといえば、「L'angolino(ランゴリーノ)」では建築そのものを合板でつくったんですよね。

悠嗣:そうなんです。オーナーシェフであるクライアントは、若い頃に自動車工場で働いたり、建築の電気工事の仕事も経験したりして、何でも器用にできる。また、館林市ではテナント料より土地の賃料が圧倒的に安い。そこで彼は、借地に新築することにして、予算が少ないためセルフビルドの道を選びました。そのときに僕たちがいろいろな現場で磨いてきた合板の施工技術を活用したいというので、施工は木工製作チームのpivoto(ピボット)が協働しました。

この建築は10枚の門型フレームと、それを覆う外皮としての面材が一体となったモノコック構造です。門型フレームは厚さ12ミリの構造用合板を2枚重ねて使い、屋根側の木口はその勾配に合わせて切断しています。4メートルといった長さでも手持ちの丸鋸で切っていて、それなのに屋根側の構造用合板を張ったときに隙間がなく、ピボットはここまでの精度でつくれるのかと僕自身が驚きました。

「L'angolino」はイタリアンレストランで、群馬県館林市にある(写真:近藤泰岳)

「L'angolino」はイタリアンレストランで、群馬県館林市にある(写真:近藤泰岳)

「L'angolino」ではホールや厨房など内部のプログラムに合わせて門型フレームを配置し、その頂点を上下させて屋根の稜線を決めた(写真:近藤泰岳)

「L'angolino」ではホールや厨房など内部のプログラムに合わせて門型フレームを配置し、その頂点を上下させて屋根の稜線を決めた(写真:近藤泰岳)

施工風景。微妙な角度で切断した合板を、家具のような高い精度で収めている(写真:GENETO)

施工風景。微妙な角度で切断した合板を、家具のような高い精度で収めている(写真:GENETO)

― 家具の精度で建築をつくっていたわけですね。気の遠くなりそうな話ですが。

悠嗣:そうですね。でも、このプロジェクトで改めて合板の可能性を見いだせたように思います。僕たちは活動初期から、建築と家具の中間にあるような新しい空間を模索し、その過程で合板を多用してきました。合板は入手しやすく、かつ、加工しやすいからです。

合板は少し手を加えれば多彩な表情を生み出せます。僕たちがシナ合板よりラワン合板を使うことが多いのは、ラワン合板のほうが安いことのほかに、塗装が有効に働くから。個体差が大きいのでそのまま使うと色の違いが気になりますが、塗装すると木の質感だけが浮かび上がります。東京・港区で内装設計を手がけたオフィス「AFT office」では、ラワン合板に銀色の塗料をかなりしっかり塗りましたが、木の質感は残っていて、近寄るとそれがわかります。

アート関係のオフィス「AFT office」ではラワン合板を銀色に塗装。大小の開口部の枠は建材のモールディングを使って額縁のように(写真:近藤泰岳)

アート関係のオフィス「AFT office」ではラワン合板を銀色に塗装。大小の開口部の枠は建材のモールディングを使って額縁のように(写真:近藤泰岳)

コ~ジ:僕の思う質感と風合いの違いを先ほど話しましたが、風合いは質感より主観的なところがあり、「THE WALL」の鋼板のように、素材の仕上げ方によっても変わるのが風合いだと思います。「焼肉矢澤」では聚楽(じゅらく)土の塗り壁を、あえて鏝(こて)跡を残すように仕上げ、風合いを出しています。ただ、職人にはこの感覚をなかなか共有してもらえず、何度やっても「きれい」に仕上げてしまって「美しく」ないので、仕方なく僕が塗りました。

「焼肉矢澤」の聚楽土の塗り壁(写真:近藤泰岳)

「焼肉矢澤」の聚楽土の塗り壁(写真:近藤泰岳)

― 「きれい」と「美しい」も違うと。

コ~ジ:見た目が整っているのが「きれい」、整っていなくても心揺さぶる何かがあるのが「美しい」と言いましょうか。僕たちは70点の仕上がりに美しさを感じるんです。もちろんクオリティや精度が70点という意味ではありません。100点満点に仕上げることはできるんですよ。でも、意図的に狙わない。満点の先はゼロだから。これは京都的な考え方かもしれませんね。京都人は名家になればなるほど、姓名判断で満点とされる名前を避けている場合をよく見ました。京都以外では名家の人はほぼ必ずといっていいほど満点の名前なのに。一時期ハマって調べたんですけど(笑)。

― GENETOは製作や施工を自分たちでも行うからこその発想の広がりがあるように思います。

コ~ジ:経験則というのは大きいですね。初めの頃は失敗の連続でした。無茶なことをした素材はすぐにダメになります。そのたびに克服してきた結果、この素材はこうしたらダメになるという微妙なさじ加減がわかるようになりました。だから今は、ダメにならないギリギリの線を早い段階で見極め、その領域で最大限のことを行うスタンスです。

GENETOによるインスタレーション「THE WALL」の概要や会場詳細は
https://www.diesel.co.jp/art/geneto_the_wall/
またはスペシャルサイトで
http://genetothewall.jp

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