2019年10月16日、当社は「機関投資家向け 東京ロジスティクスセンター見学会」を開催しました。当イベントは、機関投資家の皆さまに、当社のロジスティクス機能の重要性や優位性について理解を深めていただくために実施したものです。
当日は、当社ロジスティクス本部長 美根より、当社のロジスティクス部門の全体像や中期経営計画に基づく取り組み、今後の見通しや課題などについてお話しさせていただいた後、東京ロジスティクスセンター長 菊川の案内で、センター内をご見学いただきました。ロール状の壁紙や長尺シートを10センチ単位でカットする「加工物流」の様子や、梱包・検品・積み出しから配送といった各工程について詳しくご説明し、当社の物流機能に関するご理解を深めていただく機会となりました。
当社はステークホルダーの皆さまとの建設的な対話を通じ、中長期的な企業価値の向上を目指しています。この実現に向けた施策の一環として、2023年12月、アナリスト・機関投資家の皆さまと監査等委員との対話を実施しました。
アナリスト・機関投資家 5社6名
当社出席者 5名
羽鳥 正稔
【社外取締役 監査等委員(委員長)】
元株式会社カネカ 代表取締役 副社長
浜田 道代
【社外取締役 監査等委員】
名古屋大学名誉教授(元公正取引委員会委員)
宇田川 憲一
【社外取締役 監査等委員】
元東ソー株式会社 代表取締役社長
寺田 修
【社外取締役 監査等委員】
元清水建設株式会社 代表取締役副社長
佐々木 修二
【取締役 常勤監査等委員】
元当社営業本部長
スキルマトリックスについて、卸売りを中心とした事業モデルから空間全体を提供するスペースクリエーション企業※への転換や海外事業の拡大を進めるうえで、スキルの多様性は十分に確保されているとお考えでしょうか。
※スペースクリエーション企業について
「長期ビジョン 目指す企業像」をご覧ください。
宇田川:スペースクリエーション企業への事業拡大は、これまでにはない事業モデルを目指すことになるため、厳密な意味において4人の社外取締役に実務経験があるわけではありません。しかし、「業態転換」や「海外の企業買収」などに携わってきた経験は、今後の経営戦略や課題解決においていかせるものであると考えています。
羽鳥:スキルマトリックスや社内外取締役の比率等は、社外から求められる水準をクリアしています。しかし、さらなる企業価値の向上において、現在の基準をクリアするだけで十分なのかというと、決してそうではないでしょう。スペースクリエーション企業を実現するためには、スキルマトリックスには表れない「構想力」やステークホルダーに対する「発信力」等の別のスキルが必要であり、まだまだ議論の余地があります。一方、私自身の経験に立ち返ると、既存の事業を市場環境や需要に応じて変化・拡大させる、つまり1や2だったものを3や4に変えるような行為であったように思います。しかし、今当社が行おうとしているのは、自分で新しいマーケットを作ろうとするような、0から1を創り出すような事です。ここにおいてより経営の質を高めるためにも、外形的な社外取締役の員数ではなく、社外取締役、業務執行取締役の実質的な役割について、改めて検討していく必要があると考えているところです。
政府が掲げる「東証プライム市場上場企業は2030年までに女性役員比率30%以上を目指す」という目標について、今後の対応を含めて、どのように考えていますでしょうか。
浜田:まず、女性取締役が私一人という現状については残念と言わざるをえません。ただし、この点については2030年の目標達成ができるよう議論を進めています。一方、持続的かつ多様性のある組織の実現においては、社内の女性執行役員、そして取締役の育成を行う必要があると認識しています。 当社では、2023年7月に女性管理職比率20%を達成しており、一気には難しくても、こうした人材育成は着実に進んでいるものと期待しています。
2014年に安田社長が就任された当初と現在では、取締役会で議論する内容にどのような変化、進化がありますでしょうか。
羽鳥:振り返ってみると就任当初の議論の多くは、設備投資やM&A案件といった定量的な内容であったと思います。そこから、「求める企業の姿とは」「企業価値を継続的に高めるには」といったビジョンや事業構想の議論が多くなりつつあるという変化を感じています。
社外取締役としての役割を果たすうえで、ご発言や情報収集に関してどのような点を注意していますか。また、会社側からのサポート体制についてはいかがでしょうか。
羽鳥:会議での意思決定プロセスは往々にして予定調和になりやすいため、敢えて異なった視点、論点を投ずることを適宜行うよう意識しています。また、社内情報については現場の方との面談や諸会議への参加機会を設定してもらっており、現場に近い情報に触れている印象はあります。一方で、会社から提供される情報や機会は、ある意味で会社の風土や考え方が反映されやすいため、自分自身で独自に情報を取得するように努めています。
監査等委員会では、会社の取り組みやKPIの中で何を重視して議論していますでしょうか。
寺田:KPIそのものは執行サイドにおける年度ごとのターゲットであり、それがあまりに的外れでない限り、尊重したいというスタンスです。一方、ここで何を重視するかは各自の視点や経験によって異なると思いますが、私自身は今後の成長戦略を議論する中で、これまでの取り組みや現在の組織体制等と比べて無理なく適正かという点を見ています。そして、具体的な施策に落とし込む際には、これまでに議論した考え方と整合性があるか、脈絡が取れているかを見定めたいと心掛けています。また、実現のための時間軸、人材体制を含めた視点など、関連する項目を整理してより建設的な議論になるよう意識しています。
取締役会での議論を通じて、会社の方針がブラッシュアップされることはあるのでしょうか。
寺田:当社は会議の場で議論をすることを非常に大事にする会社であり、質問等に対して、回答が曖昧になることはありません。その場で回答するなり、議論をするなり、その場で結論を出すことが難しい場合には、後日メール等で議論します。また、議論のための資料は誠実に提示され、適切な判断につながっていると認識しています。
御社の中長期的な成長における課題は何だと認識されていますでしょうか。そして、どのような解決策を議論されていますでしょうか。
佐々木:2014年の社長就任以降の10年間、安田は非常にダイナミックな改革を行い、ビジネスモデルそのものはもちろん、営業戦略、組織体制、人事制度等も大きく変化してきました。こうした中で、次のステージに進むためには、従来社内で蓄積してきたスキルだけでは間に合わないという現象が起きており、専門人材の採用や人材育成に注力しているところです。一方で、改革を実行し、事業規模を拡大していくためには、既存社員の意識変革とともに、キャリア採用者を含めた社員同士の融合・適応を図る必要があると認識しています。今、まさにさまざまな変化の最中にある中で、中長期の成長におけるテーマ、そして戦略の根幹にあるのは「人」であると感じています。
既存事業の成長が一定の水準を迎えたとき、次の手段を検討する必要があると思います。ここにおいて、社外取締役の皆さんのご経験はどのようにいきるとお考えでしょうか。
宇田川:成長戦略の一つである海外事業についてお話します。私は石油化学に携わってきましたが、国内市場が頭打ちとなった際には、やはり海外への進出を図りました。サンゲツにおいても、国内市場がシュリンクする中で、北米や東南アジア、中国・上海と拠点を構えたわけですが、北米のKorosealにおいては、買収時のデューデリジェンスが少し甘かったように個人的には思っています。2016年にグループ会社化した際、Korosealは組織体制や製造設備、営業体制等々にさまざまな課題を抱えており、製造機械の新設・導入や商品の見直し等の施策を打ちましたが、新型コロナウイルス感染症の強い影響を受け、収益が低迷していました。しかしながら、最近になって業績は改善しています。この要因は、コロナ禍からの市場の回復と、これらを背景にした製造効率の改善、そして現地マネジメントの刷新といった、経営全般における体制整備が奏功しつつあることです。来年以降もこうした要因により、徐々に収益化を図ることができるでしょう。しかしながら、依然ブレイクイーブンであり、満足できる状況ではありません。もちろん、私の過去の経験とは環境や市場が異なる点はありますが、こうした中で、参考になる意見が述べられればと考えます。
安田社長就任後に取り組まれてきた施策が、ここ数年で業績に表れてきたように見えます。この理由についてどのようにご理解されていますでしょうか。
浜田:安田は社長就任以来、会社の将来に向けたビジョンと戦略を掲げ、社員と議論しながら、激しい改革の10年を駆け抜けてきました。当初は社員も急激な変化に戸惑うところがあったのではないかと思いますが、改革の中で社員自身が成長の意欲を持って取り組むことで、相当に意識変革が進んできたように見えます。これは、会社という組織の成長・強化として評価すべきところでしょう。
一方、近時の業績が向上した理由は、社長就任直後からロジスティクスや基幹システムの刷新、M&Aなど、コスト先行で進めてきた投資がようやく効果を表すようになってきた状況の中で、三度の値上げを成し遂げたからです。値上げについては、当初は社内でも市場に受け入れられるか懸念する声もありました。しかし、業界全体が価格競争により疲弊してきたことへの強い危機感が、安田にはありました。「サンゲツが率先してこの状況を変えなければ、誰が変えられるのか」という固い決意のもと、値上げを敢行したのです。結果として、シェアをほとんど落とさず、業績拡大に結び付いたのは、やはりこの間、顧客への価値創造に誠実に取り組んできた成果だと考えています。
羽鳥:こうした成果の一方で、値上げに依存するだけの成長ではあってはいけないとも議論しています。スペースクリエーション、スペースオペレーション企業への転換を進め、事業モデルそのものを変える必要があると認識しています。これまで高めてきた空間デザイン提案機能、スペース材料提供機能、在庫・配送・物流機能、施工機能を組み合わせて、どれだけお客さまにメリット・利益として価値を提供し、認めていただけるかが重要となります。これまでの商品販売をベースとした成功体験から発想を転換し、新たな価値を提供するという点で、多くの議論・挑戦の余地があると感じています。
※スペースオペレーション企業
「長期ビジョン スペースクリエーション企業の先の展開を目指して」をご覧ください。
今後のサクセッションプランの議論はどのように進めていますでしょうか。また、次期トップ候補者の方のトレーニングで工夫している点はありますでしょうか。
浜田:安田体制の10年間が大きな成果を上げてきただけに、後継者へのバトンタッチは難事業です。しかし、事業の持続的な成長を目指すには、若い世代に経営権のバトンを手渡し、新陳代謝を図り続けなければなりません。指名報酬委員会では、社長の安田を含む全員が、サクセッションプランの重要性を強く認識しています。実際に2年前から、次の候補者へのバトンタッチを進めるためのプロセスに入っています。具体的には、後継者育成計画に基づく複数候補者と個別面談を行うほか、グループ討議の結果報告や、常勤監査等委員の往査に社外取締役も同行するなどを通じて、対話を重ねています。当社では毎月60名ほどの経営幹部が集まって事業課題検討会議を開催しており、内容によってはオンライン参加を含めて200名を超す人数が集まります。近年はこの会議に社外取締役も出席し、後継候補者を含む経営幹部の考え方を把握するとともに、経営において必要な示唆等も行いながら、議論・検討を進めています。
これらの活動は、将来の経営体制のあり方を見極めるための情報の充実に役立っており、併せて監査の質向上にも結びついていると考えています。
日本市場全体が人手不足という問題に直面するなか、御社の社員の労働環境・待遇の改善、人材獲得の施策についてどのように評価されていますでしょうか。
浜田:当社では「⼈的資本の拡⼤・⾼度化・活躍⽀援」を成長戦略の基盤に置いており、「社員と一体となった経営」という視点でこの戦略を進めている点を評価しています。今後は、ますます人手不足が進むでしょう。過去の日本社会においては、雇用契約は、契約といえども主従関係になりがちでしたが、今後はそこから脱却し、より平等な関係になっていくでしょう。当社は、直近ではキャリア採用を積極的に行っています。そうして採用した方々は総じて意欲の高い方々であり、大きな戦力です。
一方、当社は男性も積極的に育児に関わってほしいと考え、2週間以上の育児休業率100%を目指しています。こうした就労環境における流動性や多様性が、個人と会社と社会の関係を望ましい形に変えて行くのであろうと期待しています。
壁紙業界において、御社はバリューチェーンを強化するためにメーカー(製造)サイドに参入する決断をされましたが、業界として利益の確保にバラつきのある構造はサステナブルとお考えでしょうか。
浜田:当社はバリューチェーンにおける調達機能を強化するための施策として、メーカーサイドに参入しました。その背景には、メーカーの衰退がインテリア業界全体の衰退を加速させているという安田の課題認識がありました。また、サプライサイド全体の発展を目指すために値上げをする必要があることを、メッセージとして広く発信したことも、有意義な取り組みであったと考えています。
羽鳥:当社の属する業界だけでなく、ほかの業界にも言えることですが、リーディングカンパニーの立場にある企業は、サプライチェーンを維持するために業界全体の成長を踏まえた事業戦略を考える必要があります。それらは結果として、当社のビジネスモデルを存続させるための施策にもなり、これまでの値上げも業界全体を見据えた施策の一環といえるでしょう。しかしながら、現在の施策および結果が全て満足できるものではなく、将来を見据えて新たな施策を検討・実行することがまだまだ必要だと考えています。
2018年度
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