そもそも日本の住まいは
ペット向けじゃない!?
靴を脱いで生活する日本の住宅には「人間が裸足で歩くこと」を前提にした床材が使われています。傷付きにくさを重視したフローリングは表面が硬くて滑りやすく、人に近い足裏で、湿り気があって爪のしまえる猫はまだしも、爪をしまえない犬が歩くには適していないケースが多いのです。
特に犬の歩き方は、前足を重点的に使って歩く「前輪駆動」。滑りやすいフローリングではさまざまな問題が生じます。
例えば足の踏ん張りが効き辛いため、飛び跳ねるように歩いたり、不自然な屈伸を強いられたりと、常に体に負担がかかる状態になっている場合も少なくありません。このような住環境で過ごしていると、ワンちゃんネコちゃんはストレスを感じやすく、ケガや病気にもなりやすくなってしまいます。
ペットが過ごしやすい家って?
愛するペットには毎日を伸び伸びと暮らしてほしいですよね。そのためには日々を過ごす住環境が大きく影響します。
犬と猫では重視するポイントが異なり、それぞれにあった環境を用意してあげましょう。例えば犬は、ハウスをなるべく窓や扉から遠ざけた場所に設置し、外からの刺激が入りにくい落ち着いた居場所で、ゆっくり寛げるようにすることが大切。
一方で、猫は退屈防止と運動のできる環境が必要です。自由に家中を動き回って複数の部屋を行き来できたり、飛び跳ねてアクティブに運動できたりする空間を整えましょう。さらに、その各部屋は安全か猫自身で確認できるよう誰にも邪魔されず室内を観察できる場所があると理想的。また、外の自然や気配から刺激を得るため、窓に近づける工夫もあると良いでしょう。
取材協力:動物と暮らす住研究所
「いい床」と「わるい床」って
どんなもの?
ペットにも、人にも、優しい住まいにするためには「床材選び」がとても大切。それでは、どんなものが「いい床」なのでしょう?
動物に関する専門領域の先生方にお聞きしました。
行動制限より、ふれ合いを。
そのためにも
「滑りにくい床」
で安心できる
環境をつくりましょう
堀井隆行(動物応用科学)先生
堀井隆行(動物応用科学)先生
私は犬猫の動物行動学を専門としているため、飼い主さんからしつけの相談を受ける機会がよくあります。その中で滑りやすい床に関する問い合わせも珍しくありません。
実際に愛犬が滑りやすい床でケガをしたり、愛犬の足や腰に疾患がみつかったり、足腰に負担がかかるとご存知だったりする飼い主さんに「家の中で飛んだり走ったりするのをしつけで落ち着かせたい」と相談を受けます。
私は愛犬の行動を落ち着けるトレーニングはしますが、行動を過度に制限することはおすすめしていません。動物は行動を制限すればするほど、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が下がってしまうからです。また、犬猫には「将来的に足や腰に悪いから飛んだり走ったりしないでおこう」という考えはないので、いくらトレーニングしても飛んだり走ったりを完全に“ゼロ”にすることはできません。
動き回らないように狭い空間に長時間入れるなど過剰に行動を制限してしまうと、いざ出して遊ばせようとした時、爆発的に興奮し、かえってケガにつながることもあります。
そうした問題を防ぐためにも、日々、愛犬や愛猫と遊ぶ時間を積極的につくるほうが大切です。そのためにしっかりと滑りにくい床材を選び、ペットが伸び伸びと暮らせる環境を整えてほしいです。
また、理想の「いい床」を考えるなら、滑りにくく、掃除のしやすい床だと思います。動物との生活では、排泄物、唾液、汗、抜け毛、フケなどによって住環境の清潔さを損なう恐れもあるので、滑りにくいだけでなく清潔に保ちやすい床材は、ペットも、そして飼い主さんにとっても過ごしやすい家になると言えるのではないでしょうか。
<堀井先生プロフィール>
堀井隆行
ヤマザキ動物看護大学 動物看護学部
動物人間関係学科
講師 愛玩動物看護師
人と動物の生活が豊かになるように、主に犬猫の動物行動学について教育研究に取り組む。その他、動物病院にて問題行動の修正やしつけ相談、ペット用品開発の監修やアドバイスなどに携わる。共著に『知りたい!考えてみたい!どうぶつとの暮らし』(駿河台出版社)。
小型犬に多い「膝蓋骨脱臼」は
滑りやすい床が
悪化の要因のひとつ。
予防のため「滑りにくい床」を。
高柳信子(獣医師)先生
高柳信子(獣医師)先生
獣医師として多くの動物を診察した経験から「床に起因するトラブル」は予想以上に多いと感じています。特に住宅のフローリングで滑りながら遊んだり走ったりして足や腰を痛めるケースも多く、「滑りやすい床」は動物の関節などを痛める原因になり得るでしょう。チワワ、ポメラニアン、トイ・プードルなどの小型犬に多く見られる「膝蓋骨脱臼」は、膝蓋骨(膝のお皿)が内側もしくは外側に外れてしまう病気です。重症化すると「前十字靭帯断裂」という靭帯の断裂につながり手術となることもあります。前十字靭帯断裂は、小型犬の膝蓋骨脱臼に続発しやすいほか、膝への負担が大きい中高齢の肥満傾向の犬で、特に大型犬は発症しやすいです。そしてこれらのケガは、適切な床材の選択によって予防が可能です。飼い主の後追いをするだけでも小走りになってしまう小型犬の場合などは特に滑りにくい床を選びたいですね。
<高柳先生プロフィール>
獣医師
コンパニオン・アニマル・センター センター長
アニマル・メディカル・センター 院長
学校法人ヤマザキ学園 ヤマザキ動物看護専門職短期大学 動物トータルケア学科
准教授
日本獣医がん学会Ⅱ種認定医
麻布大学を卒業後、20年以上臨床獣医師として一次診療施設や大学附属病院で診療や手術に従事。現在は動物看護師を育成する専門職短期大学で様々な症例の経験を活かし、実務家教員として教鞭をとりながら併設の動物病院で一般診療に携わる。