
株式会社サンゲツ
INNO PANEL プロダクトリーダー
蜂谷 賢
イノパネルのプロダクトリーダーであると同時に、壁装ユニット商品開発課長。
サンゲツの壁紙商品における商品開発者たちを束ねる傍ら、イノパネルの開発に心血を注いできた。
業界のため、壁紙にさらなる進化を。

壁紙×石膏ボード×貼合の
3社の技術が集結
「壁紙と下地となる基材が一体化した新建材」を開発しようという構想自体は以前からありましたが、当時はあくまで意匠面でのパネル化の可能性を思い描いていた段階。施工方法そのものを変えるような工法の改善までは踏み込めていませんでした。イノパネルの開発は、手探りでのスタートだったと思います。
そうした中で出合ったのが、吉野石膏さんが省施工のために開発された「スマートJG工法®」でした。一目見て、これからの時代に求められる工法だと直感しました。この工法を前提に、石膏ボードと壁紙を一体化させることができれば、職人不足の課題を抱える施工現場の負担を軽減できるのではないか。そこではじめて、意匠だけでなく工法も見据えた新しい商品のイメージが明確になっていきました。
石膏ボードと壁紙を貼合することは、サンゲツにとってこれまでに前例のない領域。しかし、貼合分野で高い技術力を持つフジプレアムさんにもご協力いただき、一つひとつ課題を乗り越えながら圧着機械の開発を進めていくことができました。吉野石膏さんの建築材料や画期的な「スマートJG工法®」、サンゲツの壁紙や空間づくりにおけるノウハウ、そして両社の商品を結びつけるフジプレアムさんの貼合技術。それぞれの強みを持ち寄り、建築業界の課題を解決していきたいと同じ方向を向いて開発に臨めたことが、プロダクト完成に辿りつけた大きな要因だと感じています。
工場と現場の両方で検証を重ねた末の完成
従来工法では、壁紙の裏面に糊を塗布した後、すぐに石膏ボードに貼り付けるのではなく、オープンタイムと呼ばれる待ち時間が必要です。壁紙に糊が浸透することで伸縮が起こるため、施工環境や商品毎に、適切なオープンタイムを見極めて施工することが、施工後の仕上がりに大きな影響を与えます。これは壁紙の施工における重要な工程です。
一方、イノパネルは工場のライン設備で、石膏ボードに壁紙を貼合するため、従来施工のように糊を塗ってからオープンタイム(待ち時間)を確保しようとすると時間的にもスペース的にも効率がよくありません。そう考えたときに従来工法で使用される施工糊は不向きだろうと考えていました。壁紙の防火性能は壁紙単体ではなく、下地となる基材と施工に使われる接着剤との組合せで設計されており、施工糊を変えるとなると耐久性などの物性検証だけでなく、防火性能を一から考える必要がありました。そこでまずは失敗ありきで、従来工法に使用される施工糊をいくつか試してみたところ、これが予想に反して良好な結果に。フジプレアムさんの高い貼合技術により、従来施工より強い圧着強度を確保できていたことが、大きく影響したと考えています。既存の糊が使えると分かったときは、正直なところ嬉しい誤算でしたね。
イノパネルのラインアップを検討する工程においては、豊富な壁紙のバリエーションの中から、どんな壁紙をイノパネルに適用するか、機能面だけでなく、使用環境や施工環境を考慮し、外部の施工会社の協力を得ながら、現場での検証を重ねました。その中で、イノパネルの施工時には、従来工法よりもキズや汚れが生じやすいという新たな課題も見えてきました。石膏ボードは下地基材として使われることが前提のため、多少のキズであればパテなどで補修が可能ですが、イノパネルの場合は最終仕上げ材になるため、現場での丁寧な取り扱いが一段と求められます。そこで職人の方々のご意見をいただきながら扱いやすさも重視し、キズや汚れがつきにくい「フィルム汚れ防止壁紙」や「スーパー耐久性壁紙」を採用しました。
試行錯誤を重ねてようやく形にできましたが、ここがゴールだとは考えていません。現在は柄合わせ不要の無地柄のビニル壁紙に絞っていますが、今後は柄物や織物壁紙、和紙壁紙といった多様な壁紙をイノパネルに採用できるよう挑戦し、プロダクトをさらに進化させたいと考えています。

真摯に商品と向き合い、
より安全性と品質への信頼を
イノパネルは壁紙を表装に使用しますが、壁紙ではありません。壁紙化粧ボードとしての防火性能や品質管理基準、トレーサビリティなどを一から整理し、地道に検証を重ね、安全性の確保に努めました。従来の壁紙の防火性能は、考え方の根底に「現場施工を伴うもの」という側面があり、工場加工品であるイノパネルは似て非なるもの。これまでの道のりは新しい挑戦の連続でした。商品をより良くしたいという想いのもと奔走し続け、壁紙化粧ボードとして、今後の応用も期待できる品質・安全管理の枠組みを整えることができました。新たな商品だからこそ、安全性や品質を最優先に考える。その姿勢を示すことで、関連企業や外部機関から理解が得られたことも、イノパネルに大きな価値を与えたと考えています。

時代の変遷と共に続ける
壁面の進化
イノパネルは、建築業界が直面する職人不足という業界課題に向き合う中で生まれたプロダクトです。振り返ってみると、従来の壁紙もまた、同じように時代の課題に応える形で発展してきました。壁紙は、高度成長期に住宅需要が急速に高まり、それまで主流だった左官や塗装などの湿式工法では工期に対応しきれなくなったことを背景に乾式工法である壁紙は広まりました。その後も、防火性能や美観維持、コストといった時代ごとの要請に新しい技術開発で応え続け、常に合理性を背景に建築市場の課題に応えてきた存在だと言えます。
イノパネルの誕生もまた、そうした壁紙の進化の延長線上にあると考えています。職人不足という課題に対し、イノパネルはこれからの建築現場を支える一つの答えになり得る存在です。今後はこのプロダクトを、日本の古き良き伝統とつなげていくことも、私たちの役割だと考えています。壁紙で用いられてきた和紙や織物など、日本が誇る文化や技術を引き継いでいけるように、イノパネルの進化や多様化を進めていきます。
