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サンゲツの粘着剤付化粧フィルム「リアテック」の誕生から30年。商品開発課の横井佑介が、気鋭の陶芸家・青木良太さんと対談。モノづくりする上で大切な、マンネリ化せずに新しいことにチャレンジし続ける姿勢について、岐阜県土岐市にある青木さんのアトリエで語り合いました。

青木良太氏

陶芸家

青木良太

1978年富山県生まれ。岐阜県土岐市のアトリエで制作を行う。年間約15,000種類の釉薬の研究を通じて、金、銀、プラチナ等、陶芸では通常扱うことのない素材を使用し、誰も見たことのない美しい作品を生み出し続けている。国内外で年間開催される多数の個展を中心に現代美術のアートフェアにも参加し、他分野とのコラボレーションも行うなど、陶芸の魅力を世界に伝えている。TBS「情熱大陸」ほかメディア出演多数。

2002年、テーブルウェアフェスティバル最優秀賞・東京都知事賞、朝日現代クラフト展奨励賞。2003年、高岡クラフト展銀賞。2004年、Sidney Myer Fund International Ceramics Award(オーストラリア)銀賞。2005年、高岡クラフト展グランプリ、International Triennial of Silicate Arts(ハンガリー)銀賞、テーブルウェアフェスティバル優秀賞、国際陶磁器展美濃銅賞、Lifestylist of the Year 2005。2006年、テーブルウェアフェスティバルグランプリ。2007年、4th World Ceramic Biennale 2007 Korea(韓国)銀賞。2008年、台湾国際陶芸ビエンナーレ特別賞。

横井佑介

サンゲツ スペースプランニング部門
壁装ユニット 商品開発課 リアテックチーム

横井佑介

粘着剤付化粧フィルム「リアテック」を開発する主担当。化粧フィルムで、本物の素材さながらのリアルな質感や美しさを表現するために、日々新しい創造に挑むことを大切にしている。また、商品の魅力を顧客に伝えるため、リアテックの見本帳制作にも従事している。入社14年目。休日は家族の時間を大事にするパパ。実家が岐阜県多治見市で茶碗などの陶器を焼く窯業を営んでいる。

「やり尽くす」ことはない。
常に新しいものを創造する。

横井

青木さん、今日は対談を受けてくださり、ありがとうございます。

青木

こちらこそ、お声がけいただいてありがとうございます。

横井

実は、私の父がこの近くで窯業を営んでおりまして。

青木

え、そうなの!?

横井

茶器などの陶器をガス窯で焼いています。父も青木さんのことは存じ上げていて。
会社の同僚にも青木さんのファンがいて、個展に足繁く通っていたそうです。

それで青木さんが常に新しいモノづくりにチャレンジされているのを存じており、
リアテックもこの30年間ずっと新しいデザインに挑戦し続ける歴史だったので、
是非お話しさせていただきたいと思いました。

青木

そうでしたか。
横井さんは商品開発をされているんですよね。

横井

はい。リアテックという商品を開発しています。
リアテックは、例えばオフィスや店舗などで、
本物の突き板や石などを採用したいけど設計上・予算上難しい時に、
本物に似せた化粧フィルムを壁や扉に貼る、空間コーディネートの仕上げ材です。
本物の質感や色合いを追求しているので、
端から見るとどちらが本物かわからないと思います。

青木

なるほど。先ほど新しいデザインに挑戦し続けているとおっしゃいましたが、
既に世の中に存在するものを再現するなら、
「もう出し尽くした」ということにはならないのですか?

横井

常に新しいアプローチ、新しい製法、今までにない意匠を探し求めているので、
「やり尽くした」ということはないですね。
例えばウッドデザインは、かなりの数の木種・色を揃え、
一見やり尽くしているように見えますが、木目はもっと美しいものをつくれるはず。
本物をただスキャンしてプリントするのではなく、
色合いや質感を磨き、トレンドを加味しながら
よりリアルで、より美しくブラッシュアップしたものをつくり続けています。
以前の技術ではできなかった課題にも取り組み続けており、
常に何か新しいことに挑戦しているというのが、
手前味噌ですがリアテックの歴史だと思っています。

青木

自分が陶芸にはまった理由も、まだ世の中にないものを
生み出すことができるからなんです。
地球上の鉱物を、様々な条件で掛け合わせて高温で焼くと、新しいものができる。
釉薬の分量や温度を少し変えるだけで、全然異なる色合いになる。
地球や惑星の誕生と同じだと考え、研究し続けてきました。
自分の人生かけてもやり尽くせない。だからこそ、楽しいんですよね。

横井

私たちがつくるリアテックも、開発メンバーが変われば
新しい解釈のリアテックができると思います。
常に新しいものを創り続ける。
それは私たちにとっても大事にしていきたいアイデンティティですね。

青木さんの対談様子

青木

やっぱり、リアルであることがいいんですか?

横井

本物そっくりを追求するんですが、一方で例えばウォルナットの木目は
全部が全部綺麗なわけじゃなく、腐食部もあります。
それを取り除いたり、バランスよくレイアウトしたり。
本物の追求に加えてリアテックだからこそできる美しい木目を表現しています。
良かったら、見本帳を見てサンプルを触ってみてください。

青木

ほんとだ。質感ありますね。

横井

本物の木って木種や加工方法によって、マットな質感もあれば、
照りが際立つもの、ゴツゴツとした質感が特徴のものもある。
そんな素材本来の特徴を活かし、リアルさを表現していますね。

青木

触ってこれだけの質感があって、見た目もそっくりなのだから、
次は香りに挑戦するっていうのも面白そうじゃないですか?
木の香りってすごくいいじゃないですか。

横井

そうですよね。五感全体に訴えていくのはいいですね。
スギやヒノキの香りとか出せたら本当に面白いと思います。

見本帳を一緒に見ながら談話

横井

木目以外にも、石材や金属、漆喰の色味や質感を表現するデザインも出しています。
例えば錆。金属が腐食して現れる、美しい色合いや色の変化を表現する。
実際に腐食するわけではないですが、その美しい錆の「味」を楽しんでもらうと。

青木

今思いついたけど、逆に経年劣化していく様を楽しんでもらえるような商品も
あっていいんじゃないかな。
実は、自分たちの陶器の分野には「育てる」という概念があるんです。
最初はサラッとしていたけど、何年も使っていくうちに質感や色味が変わっていく。
銀だって5年経つと酸化するじゃないですか。

横井

たしかに私たちは空間との調和を大切に考えているので、
質感や色味が変わらない耐久性があるものをつくっていますが、
逆に空間が年月とともに変わっていく「味」を楽しんでもらうのも面白いですね。

商品開発課の横井に対し、半ば思いつきではあるが、柔軟な思考で新たなリアテックの方向性について提案する陶芸家の青木氏。実験を繰り返し、失敗を肯定することへと話は続きます。

挑戦できるフィールドを自分で創るのも大事。

横井

私たちも斬新な商品づくりに挑みたいと常に考えていますが、
一方で我々は市場でどれぐらいの人に評価されるだろうかというのも考えるので、
商品の売れ行きが気になるのも本音です。

青木

僕は意図的に、自分が新しいことにチャレンジするための売場を設けています。
僕のカタログを見てもらうとわかるのですが、大きく3つのラインに分かれています。
一つ目は、自分がつくりたいものをつくる「ザ・アート」なライン。
もう一つは、自分の工房でみんなで手分けしてつくるラインです。
そして最後は、質を落とさず、中高生でも手に取りやすい価格に設定したライン。
カテゴリーを分けることで、実験段階の作品も販売することができます。
自分が新しい挑戦をするためのフィールドを、自分で創るのって大事だと思います。

青木さんの対談様子

青木

大手飲料メーカーさんから、新商品の相談を受けたことがあります。
そのメーカーさんは、沢山試作品を創り出しているのに、
それらが世に出ることはほとんどないらしいです。
でもきっと開発者は刺激的なモノを生み出しているはず。
それを市場で売り出した方がいい。
すると開発者も、「あ、これ売っていいんだ!」と喜び、
また意気揚々と次の新商品を創作し始めるのです。
だからサンゲツさんも、予算をとって実験商品を展開してほしいな。
先ほど話したヒノキの香りがするフィルム、ぜひつくってみてください(笑)。
面白がってくれるお客さんはいるはずです。

横井

そうですね。実験的な商品開発のための予算をもらえるように頑張ります!(笑)
ところで青木さんは、作品をカテゴリー分けしたとしても、
B級品は出さないですよね。

青木

B級品は絶対に出さないです。
自分がつくったものが世に残るので、クオリティには強い責任を感じています。
自分が死んでも、残っていいものしか出さない。
納得できない、失敗したものは全部捨てる。あそこに全部。
人前に出すのは、全体の何千分の一しかないと思う。
でも捨てたものが全部失敗かというとそうじゃない。
成功するまでやり続ければ失敗ではないと、エジソンも言っています。

陶器の廃棄

横井

青木さんのB級品は出さないという姿勢は、私たちリアテック開発陣も共感します。
青木さんほどではないですが、私たちも1冊の見本帳をつくるにあたり、
新商品を100〜200点ほど開発しますが、
その10倍ぐらいのデザインを試行錯誤しながら取捨選択します。
リリースするものを決める時はチームで意見が割れることもあります。

でも最後は、私たちのテンションが上がるかどうかを一番大事にしています。
私たちがいいなって思うものじゃないと、お客さんには響かないなと。
それが、新商品として売り出すかどうかを決める最後の基準です。

青木

それ、一番大事ですよね。自分が一番のお客さんだから。

横井

自分が一番、リアテックかっこいいって思っています!

青木

うん。そういう商品を出さなきゃ!

横井さんの対談の様子

青木

横井さん自身がかっこいいと思っている商品は、ありますか?

横井

沢山ありますけど、見ていて純粋にかっこいい、綺麗だなと思うものは、
「REATEC vol.12」の新商品の中でもTX-5684という「錆」をモチーフにしたものや、
RW-5626という「チーク材」をモチーフにしたもの、
「ウォルナット」を表現したRW-5635などがそうですね。
本物と比べても遜色ないクオリティだと思います。

横井

私たちはこの見本帳と呼ばれるカタログづくりにも力を入れていますが、
青木さんも陶芸家の中では珍しくカタログをつくられていますよね。

青木

自分の作品を何か形あるものに残したくて。
スマホだと見ていて飽きるものも、カタログでページをめくりながら見ていると
落ちついて見ることができるでしょ。
ネットじゃ質感も分からないと思うんですよ。
カタログは編集も大変だけど、作品をつくるだけじゃなくて、
多くの人に自分の作品を知ってもらいたいんです。

横井

私たちも同じ思いです。
チームメンバー全員で見本帳開発にも力を入れています。
チーム内には、さまざまな芸術の造詣に深い人や、
素材の見識を幅広く持っている人もいるし、
配色ですごく良い色を生み出し、お客さんからよく褒められる人もいる。
専門分野も経歴も違う、個性が立っている精鋭チームだから常に刺激を受けています。

青木

マイクロソフト型ですね。
優秀な人が集まってチームをつくるのが、サンゲツさんなのかな。
アップルはジョブズみたいな強いリーダーとそれを支える優秀なメンバーがいる組織。
面白いですね。

チームで開発する横井と、一人で創作する青木氏。横井から青木氏へ、モノづくりの「自信」がどこから湧いてくるかという質問がされます。青木氏の答えは、先見の明を持つこと。時代を読むセンスについて、青木さんの経験知が伝えられます。

古典との対話で「先見の明」を養う。

横井

青木さんの作品は、今までにないユニークなものばかりですが、
その作品が置かれた空間との調和を考えることはありますか?
リアテックは、空間づくりのための商品なので、主張し過ぎない色合いや、
その空間で暮らしやすいデザインにすることを考えており、気になります。

青木さんの作品

青木

昔は、有名建築家の建築物に採用されるようなものをと思ったこともあります。
でも今は、自分が好きなものをつくっています。本当にそれだけ。
トレンドにこちらから合わせにいくことはせず、
素材と向き合い、そこからヒントを得てつくっています。
それをやってきた人は少ない。すると自然と新しいものが生まれるんです。

横井

青木さんは自分が好きなものをつくり、多くの人から認められています。
しかもそれを一人でやっている。
クリエイターとしての絶対的な自信が必要だと思うのです。
私たちはチームでやっていますが、一人のクリエイターとして、
その自信の源が気になります。

青木

自信ですか。うーん…。
努力することは大前提として、先見の明を磨くことでしょうか。

横井

先見の明。

青木

やっぱり、新しいものをつくろうと思ったら、
時代を先取りするようなアイデアが必要だと思うんです。
どうやって時代を先取りするかというと、歴史に学ぶんです。
焼き物には2000〜3000年という歴史が世界中にあります。
世界に行って、どんな陶器が当時の最先端を走っていたのか、
現地の図書館で調べるんです。

自分が気に入った作品のページに付箋を貼って、コピーして全部集める。
今までどんな陶器が人々に受け入れられてきたのか、歴史は知っている。
そこから自分の好きなものだけを選んで、自分だけの資料集をつくるんです。
そして、そこにないものを創る。
これをやっている人はほとんどいないはず。
脳みそが活性化されて自然と「先見の明」が養われるんです。

これは他の分野でも応用できると思います。例えば音楽。
新しい音楽を創作するなら、昔の時代を代表するような曲を沢山聴く。
その中から自分が好きなものを見つけるんです。
美空ひばりだけは良いね、とか。
そうやって古典に自分の「好き」をぶつけると、自分らしい新しいものがバンとできる。
手間はかかりますが、これを一回やったらめちゃくちゃ強くなると思います。

青木さんの対談の様子

青木

アイデアの発想という点でもう一つ。
僕はあえてこんな山奥でテレビ・雑誌やネットを見ない、
ゲームもしない生活をしています。
今の世の中、インプットが多すぎると思うんです。
逆にインプットを意識的に減らせば、脳みそがスカスカになって、
スポンジみたいに吸収できるようになるんです。
素材を見ただけで、色々気づけて自由な発想が出てくる。
この場所は作品づくりのためにはすごく良いですよ。
季節の移り変わりとか、自分の身の回りの変化に気づけるように、
インプットをやめて、目の前のことに向き合う。
それだけで脳みそは、今まで気づかなかったことにも気づいてくれるようになるんです。

横井

頭を空っぽにするというのは、真逆の発想で驚きました。

青木

今まで誰もやったことがないものをつくって、
2000〜3000年後の人たちに「うーわ全部21世紀の青木にやられてるわ」って
思わせたいですね。そして失敗したものは全部捨てる。
それが掘り起こされて、「なんだ青木もこんなに失敗してるじゃん」ってね(笑)。

横井

私たちも新しいことに挑戦した結果、思いがけない商品が評価されて、
そこから派生した新商品を開発できたという成功事例もありました。
でも、それにすがることなく新しいものをつくり続けていきたいです。
まだ世の中にないものをつくり続ければ、
自分たちが今やっていることが「先見の明」として評価される時が来るかもしれない。
新しいものをつくり続ければ、時代にグサッと刺さるヒット商品が出てくるはず。
リアテックを選んでくださった設計士・デザイナーの方々にも、その場所で過ごす方々にも、
喜んでいただけるような空間を表現できる商品を創り続けたいと思います。

(以上)

お二人の写真

RYOTA AOKI POTTERY

土岐プレミアム・アウトレット403区

陶芸家 青木良太氏のオフィシャルストア。
幅広い人に手に取ってもらいたいと、さまざまなラインの作品が揃う。
実際に触れてみると、質感や色合い、使いやすさに魅了されるはずです。

〒 509-5127 岐阜県土岐市土岐ヶ丘1丁目2

TEL:070-1077-1549