STORY#02 <後編 SOU・SOU>
⽇本から発信するファブリック
2019年5月に、カーテンの見本帳『2019-2022 AC』を発刊。そのうちのひとつに、京都発信のテキスタイルブランドSOU・SOUとのコラボレーションがある。SOU・SOUが生み出すテキスタイルにカーテンとの親和性を感じてアプローチし、6柄のアイテムを完成させた。SOU・SOU代表の若林剛之さん、開発を担当した橋本真紀さんの話を交えて、モノづくりの現場を振り返る。
写真/森田大貴
※本ページの掲載情報は取材当時(2019年12月)のものです。
PROJECT
日々の暮らしに
SOU・SOUのテキスタイルを
日本のデザインの終着点のようなモノづくりをしたいんです
― 若林剛之
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日本のデザインの終着点のようなモノづくりをしたいんです
― 若林剛之
SOU・SOUは、日本の四季と風情をポップに表現する京都のテキスタイルブランド。SOU・SOUのプロデューサーを務める若林剛之さんが、テキスタイルデザイナーの脇阪克二さん、建築家の辻村久信さんとともに、2002年にスタートさせた。扱っているのは、和装や地下足袋、袋ものや手ぬぐい、小物などで、オリジナルのテキスタイルデザインをさまざまな商品に展開している。
https://www.sousou.co.jp -
若林剛之Takeshi Wakabayashi
SOU・SOU代表/プロデューサー
1967年京都生まれ。オーダーメイドの紳士服を学んだ後、東京のDCブランドで企画・パターンを担当。退社後、ニューヨークやロンドンで買い付けた商品を扱うセレクトショップを京都にてオープン。2002年にSOU・SOUを発足、現在国内10店舗、海外1店舗を展開している。
写真/森田大貴
「東京にあるDCブランドの会社に勤めながら、休みの日には原宿の古着ショップを熱心に巡るというファッション漬けの日々を送っていました。そんなときにプライベートで初めてニューヨークに行って、ヒップホップやパンクファッションの“本物”に触れて衝撃を受けたんです。このことがきっかけとなって退職し、京都にセレクトショップを開いたのですが、ある日、外国の流行を持って帰ってくるだけで、クリエイティブさはゼロだと気づいてしまいました。だから『日本のデザインの終着点のようなモノづくりをしたい』と、SOU・SOUを立ち上げたんです」
カーテンは大きな面積でテキスタイルデザインを見せられる魅力的なアイテム
― 橋本真紀
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カーテンは大きな面積でテキスタイルデザインを見せられる魅力的なアイテム
― 橋本真紀
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橋本真紀Maki Hashimoto
SOU・SOU 企画室 室長
2005年入社。SOU・SOUのテキスタイルデザインを使ったさまざまなパッケージやコラボレーションアイテムを担当。テキスタイルデザインの持つ可能性を広げることに従事している。
写真/森田大貴
身近にSOU・SOUのデザインを
サンゲツは、SOU・SOUの目指す方向にシンパシーを感じ、コラボレーションを申し入れる。「インテリア業界最大手のサンゲツさんにSOU・SOUのテキスタイルデザインを活かしていただける、とてもよい機会だと思いました」と若林さん。「サンゲツさんなら品質も申し分なし」と即座に開発が進められることになった。
サンゲツはアプローチした時点で、SOU・SOUのテキスタイルデザインから8柄をピックアップし、ドレープとレースの組み合わせで4パターン、それぞれに想定する製造方法を示し、どのようなテイストの空間になるかイメージ写真もあわせてプレゼンシートを作成した。それをもとに橋本さんと意見交換をして、最終的には「SO-SU-U」「日々」「雪解け水」「優」「路地」「おおらか とりどり」の6柄に絞り込んだ。
オリジナルの配色をもとに、よりインテリアの空間にマッチするように、明るさや彩度を調整。とくに大柄の「優」は色の強さ抑えたり、3色展開にしたときのことを考えて、柄の色を同じトーンにするなど工夫して仕上げた。
「同じテキスタイルデザインでも、衣類とカーテンとでは表現の仕方が異なることがあります。サンゲツさんからのご意見やご提案はインテリア業界ならではのもので、とても勉強になりました」(若林さん)
橋本さんが今回初めて知って驚いたのは、フロントレースという、窓側にドレープ(不透光)、室内側にレース(透光)を吊る手法。この手法に合わせて10パターンほどの組み合わせを新たに提案した。そのうちのひとつが「路地」である。ひとつの柄をドレープとレースに分解して、両方を掛けるとテキスタイルデザインが完成するというもの。「いちばんのお気に入りなんです」(橋本さん)
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橋本さんが提案したフロントレースのアイデア。左/商品化された「路地」(AC5134-AC5136)。
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右/「雪解け水」(AC5144)の組み合わせ案。
橋本さんが提案したフロントレースのアイデア。左/商品化された「路地」(AC5134-AC5136)。右/「雪解け水」(AC5144)の組み合わせ案。
布を扱う者同士のコンセンサス
日常的にテキスタイルのデザインに携わっている橋本さんとは、同じ業界ならではの視点で色柄についてディスカッションした。たとえばリピートについて。基本的に織機は織り幅が決まっているので、幅内でどのようにリピートさせるかがポイントになる。数字や花といったモチーフのサイズ感と、横にいくつ並べるか、具体的な数字で検討をくり返した。
また、製法もさまざまあるなか、柄にふさわしい方法を両者で検討。「SO-SU-U」レース(AC5133)は、いろいろな柄のドレープと合わせられるベーシックな白にしたいと思ったが、通常のプリントだと白は難しいため、顔料プリントで表現した。「雪解け水」(AC5144)は、150cm幅のプリントリピートでは、空から降る雪のイメージの再現が難しかったため、3m幅で横使いに。そして薬剤を使って部分的に繊維を溶かすオパール加工を選択した。
素材については、SOU・SOUでは綿や麻などの天然繊維を用いることがほとんどだが、カーテンでは機能面を求められることもあり、合成繊維を使うことが多い。それによって防炎や遮光、遮熱、UVカットも可能となるのだ。たとえば防炎にすれば、住宅だけに留まらず、コントラクト物件まで使用範囲が広がる。
「生活に根づいたものにSOU・SOUの図案が落とし込まれることで、いろいろな方の目に触れられるのはうれしいですね。カーテンは大きな面積になるので、テキスタイルデザインを表現するのにとても適したアイテムだと思います」と橋本さんは語る。
木のフローリング、柔らかい色調の壁面の打ち合わせスペースには、テキスタイルデザイナーの脇阪さんの手描きの絵が各所に飾られている
写真/森田大貴
OUR VIEW POINT
西洋から脱却し、
いまの日本らしいカーテンに
日本発信のインテリア商材として稀有な位置づけになりました
― 上田まりあ
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日本発信のインテリア商材として稀有な位置づけになりました
― 上田まりあ
— SOU・SOUさんとコラボレーションをしたいと思われたきっかけは?
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上田まりあMaria Ueda
株式会社サンゲツ
インテリア事業本部 ファブリック事業部
カーテン事業室
写真/森田大貴
上田: 商品開発のときには、「商品情報レポート」というかたちで、営業やインテリアデザイン室、ショールームからの意見やアイデア、お客さまの要望を情報収集しています。そのレポートにコラボレーションの要望もあり、コラボ先としてSOU・SOUさんが挙がりました。北欧の雰囲気がありつつ、和の要素が含まれており、いまの日本のデザイン動向にぴったりでした。
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— アプローチするときには、かなり具体的に柄や製法まで想定されたようですね。
上田: 1つのカテゴリーの中でSOU・SOUらしさを一貫して持たせながらも、和・モダン・北欧風・フェミニンなど幅広いテイストを盛り込むことで、バリエーション豊かに魅せられるように柄や製法を検討しました。そしてできるだけSOU・SOUの柄同士でドレープとレースがコーディネートできるよう、リピートにはかなりこだわりました。とくに数字の並ぶ「SO-SU-U」はSOU・SOUを代表する柄ですし、ほかの柄との組み合わせもしやすく、ぜひ取り入れたいと思いました。
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写真/森田大貴
— 今回のSOU・SOUさんとのコラボで感じられたことは?
上田: 橋本さんは、フットワークがとても軽く、新しいものをつくることにポジティブで、こちらの提案や意見にも柔軟に取り組まれ、きちんと対話をしながら結論を出される。軸がぶれないからこその対応であると感じました。
若林さんは、西洋を基準とする洋服のあり方に疑問をお持ちになり、日本人が似合う、日本から発展していく服について模索し、展開し続けていらっしゃいます。インテリア業界も西洋をお手本にしてきたという経緯は同じです。そうした中で、今回のコラボレーションで完成したカーテンは、まさに日本発信のインテリア商材として稀有な位置づけになるのではないかと思います。
自社開催の展示会で初めてお披露目をしましたが、とても評判が良かったんです。いままで取り入れられなかった色や柄を実現できたのは、SOU・SOUブランドだからこそ。とくにインテリアコーディネーターの方々から「かわいい」という感想をたくさんいただきました。今後も継続できるコレクションにしたいと考えています。
PRODUCT DETAIL
SOU・SOUとのコラボレーション
素材撮影/森田大貴
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京都を拠点に展開するテキスタイルブランドSOU・SOUとのコラボレーションシリーズは6柄で展開する。日本の四季や風情を表現したSOU・SOUらしいデザインである。
「SO-SU-U」。ドレープの上にレースを重ねて。黒い数字と白い数字が踊る。
AC5131-AC5132/AC5133SOU・SOUのアイコンデザイン[SO-SU-U]ドレープ/レース
ぷっくりとした手描きの数字がちりばめられた「SO-SU-U」は、SOU・SOUを代表するデザイン(1995年)。コットン調で平織りの生地にプリントして仕上げた。レースは、遮熱とUVカットの効果もある。
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サイズの基本となったのは「9」。当初は、「9」はヨコ約2cm、タテ約3 cmだったが、数字の見え方と納まりのよさから、ヨコ約2.5 cm、タテ約3.7 cmとなった。
有効幅 150cm ポリエステル100% リピート タテ60.5cm/ヨコ37.5cm
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「AC5131/AC5133」「SO-SU-U」のレースは白い顔料でプリントされた。
「AC5131・AC5133」施工例。柔らかな丸みのある数字のデザインはテイストを問わずコーディネートできる。北欧の家具とも相性が良い
AC5134/AC5135-AC5136ひとつのデザインを分解して2枚に[路地]ドレープ/レース
お茶会に合わせて打ち水された敷石や飛び石、植え込みなどを表した「路地」(1994年)は、ドレープとレースでデザインを分けた。ドレープとレースを重ねることで、もとの柄になるという仕掛け。ドレープは遮光1級のクオリティになっている。
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「AC5134/AC5135」「路地」。白地に描いた路地の様子をベースに(左)、四角の窓が開いた黄色のオーガンジーを重ねることで、奥行きのある表情になる。
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ドレープとレースは2枚でデザインが完成するように、リピートのサイズを調整。SOU・SOUのオリジナルは黄色のみだったが、サンゲツ側から提案して水色も加わった。
有効幅 150 cm ポリエステル100% リピート (ドレープ)タテ60cm/ヨコ37.5cm (レース)タテ60.5cm/ヨコ75cm
「AC5134・AC5135・AC5136」施工例。同じドレープにそれぞれ色の異なるレースを重ねて
AC5139-AC5140大輪の花が3段でボーダーに[おおらか とりどり]レース
その名の通り、おおらかに咲いた花の柄(2011年)。リネン調生地の裾部分に、タテ3段でボーダー状にプリントしている。SOU・SOUオリジナルは彩度の高い、鮮やかな色合いだったが、透光性などに配慮して淡い色合いに。「日々」との組み合わせを想定。
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ボーダーでプリントすることから、余白に対する花のサイズのバランスに気を配った。花をタテ2段にする、花のサイズを小さくするなど、デザイン画のやり取りの中で調整。
有効幅 298cm ポリエステル100% リピート ヨコ77.5cm
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「AC5140/AC5138」左がシアーの「おおらか とりどり」で、その背景に吊ったのが「日々」。リネンライクな生地は、オーガンジーに比べて透け感は穏やか。
AC5137-AC5138エッジのゆるやかなブロックの重なり[日々]ドレープ
昨日、今日、明日と続く日々を数色のブロックで比喩的に表現している(2008年)。生地はコットン調で、手染めのようなプリントを施した。サンゲツオリジナルカラーの暖色系と寒色系で展開。
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「AC5138」
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ブロックは正方形だったが、カーテンにしたときの納まりを考慮して縦長の長方形に設定した。サイズは「SO-SU-U」との組み合わせも想定して決定。
有効幅 150cm ポリエステル100% リピート タテ60.5cm/ヨコ50cm
「AC5137・AC5139」施工例。ブロックと花という全く別のモチーフを色がつないでまとまりあるコーディネートに
AC5141-AC5143華やかで優しい花を北欧ライクに仕立てて[優]ドレープ
生き生きとした花の生命力をデザインした「優」(2012年)。和を感じさせつつ、北欧デザインにも通じる柄は、密度の高い織りによる遮光1級の暗幕仕様の生地にプリントしている。3色で展開。
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オリジナルでは真っ黒の花とグレイッシュな緑色の葉で構成されていたが、インテリアとして黒は強すぎるのでダークグレーに、緑色は逆に彩度を上げた。カラー展開では、全体に同じトーンになるように、黄色と緑色、ピンク色とグレーを組み合わせた。暗幕は遮光性が高くなるほど黒くくすむが、できるだけ裏面の黒糸が表に出ない組織にすることで真っ白を実現。おかげで華やかな花の色が映えるものとなった。
有効幅 150cm ポリエステル100% リピート タテ60cm/ヨコ50cm
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「AC5142」「優」は3色展開で、すべての色のトーンを揃えた。遮光1級でありながら、真っ白な地となっている。
「AC5141」施工例。遮光1級のクオリティながらきれいな色合いなので部屋の印象は明るく仕上がる
AC5144空から落ちる雪の玉のふわふわ感[雪解け水]レース
オリジナルでは雪の解ける様子を表現したもの(2009年)だが、その天地を反転させ、雪が降り積もるようにアレンジ。雪の玉は、オパールという部分的に布地を溶かす技法を用いている。
オパール加工:アルカリに強い繊維(レギュラー糸)を芯として、アルカリに弱い繊維(カチオン糸)で覆った糸で布を織る。それをアルカリ液につけることで、アルカリに弱い繊維が溶け、アルカリに強い繊維が残るという仕組みを利用した加工。
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「AC5138/AC5144」「雪解け水」はシンプルな丸なので、SOU・SOUコレクションはもとより、さまざまなデザインのドレープにも合わせられる。この場合、ドレープは「日々」。
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カーテンの一般的な幅150cmのリピートでは柄のイメージに合わず、また掃き出し窓のサイズで全面的に柄を表現するために、3m幅を横使いしている。雪の玉のサイズは微調整を重ねて決定。
有効幅 303cm(横使い) ポリエステル57%・レーヨン43% リピート ヨコ63cm
「AC5144」施工例。無地のカラーのドレープも「雪解け水」を重ねて表情豊かに