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モノづくりストーリー MONOZUKURI STORY

STORY#01 <前編・カーペット>

“素材の可能性”を見せる

STORY#01 <前編・カーペット>

「国際ホテル・レストラン・ショー2019」。サンゲツは、オフホワイトを基調としたカーペットで区画をつくり、和紙の製造工程をグラデーションで表現した柱を林立させたブースで出展した。会場構成を手がけたのはNAO Taniyama & Associates の谷山直義さん。「サンゲツが大切にしていること、それによって生み出されるクオリティの高さを示したかった」と語る。軸に据えたのは素材の可能性だった。
前編ではカーペット、後編では和紙にフォーカスして⦅モノづくり⦆のストーリーをお届けする。
撮影/森田大貴(特記をのぞく)
※本ページの掲載情報は取材当時(2019年9月)のものです。

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PROJECT
立体的なカーペット、
そのポテンシャルを見せる

プロダクトとして仕上がっていく過程、バリエーションの幅広さを視覚化できる方法はないかと模索しました

― 谷山直義

  • プロダクトとして仕上がっていく過程、バリエーションの幅広さを視覚化できる方法はないかと模索しました

    ― 谷山直義

    周辺のブースとは印象を異にしていた。ホテルの客室やレストランの客席という具体的な空間をつくるわけでも、新商品をことさらに打ち出した展示方法でもない。美しい和紙がひらりと空中に舞い、床は大勢の人の出入りがあるこの手のブースではめずらしいオフホワイトのカーペット。
    ブースのデザインを担当した谷山直義さんは、「僕たちはふだんの仕事で、最終のプロダクトしか見ることがありません。たとえメーカーから『何でも対応できます』と言われても、それを実感することは難しいんですよ。だから、プロダクトとして仕上がっていく過程、バリエーションの幅広さを視覚化できる方法はないかと模索しました」と振り返る。

  • 谷山直義 Naoyoshi Taniyama

    谷山直義Naoyoshi Taniyama

    1973 年名古屋生まれ。
    武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。
    スーパーポテトに入社後、グランドハイアットなど、海外を含むホテルのインテリアデザインを手がける。16年の在籍ののち独立し、2011年NAO Taniyama & Associatesを設立。グランドハイアット大連、グランドハイアットマニラなどのホテルをはじめ、レストランやブティックなど商環境のデザインを手がける。
    http://www.nt-a.jp
    撮影/栗原諭

プロダクトの「可能性」を展示したい

それに対して、「私たちはサンゲツの可能性を示したいと思っていたので、谷山さんの考えとぴったり合致しました」と、サンゲツのインテリア事業本部床材事業部商品開発課で課長を務める鈴木康高氏。いままで、サンゲツでは自社でコンセプトを立てていたが、それがホテルのオーナーや施設担当者、建築家やインテリアデザイナーの方々に響いているか不安だったという。「たとえホテル空間をつくったとしても、その印象は見る方の好みに左右されます。では、モノをしっかりと見せたいといったときにどうすればいいか? そこで谷山さんのお力を借りることにしました」。

  • 表現の振り幅を
    プレゼンテーションする場

    谷山さんは、「表現の振り幅をプレゼンテーションする場」として考えたという。
    和紙工場で製造工程の一部始終を見学したり、カーペットもサンプルのやり取りを経て、5つ星のホテルでも対応できることを実感。あとは「サンゲツの向かう方向を提示すれば良い」。
    和紙の柱は、見本帳 2018-2020 XSELECT(エクセレクト)に収録している「SHITSURAI 極(きわみ)」から谷山さんが11種類ピックアップし、未加工の和紙を最上に、中段では濃度を段階的に変えて着色したもの、床面に近いゾーンで見本帳掲載品になるように配置して、全体がグラデーションで見えるように製作した。

    ※2018-2020 XSELECTは販売を終了しています。

  • 表現の振り幅をプレゼンテーションする場 表現の振り幅をプレゼンテーションする場
  • 繊細な表現で技術の幅広さを見せる 繊細な表現で技術の幅広さを見せる
  • 繊細な表現で技術の幅広さを見せる

    カーペットは、特注による表現の幅広さを伝えるものとして、アキスミンスター織りとハンドフックを組み合わせた。織りのパターンを際立たせるため、色はナチュラルなオフホワイトに。グラフィックのモチーフは日本の伝統的な文様の麻の葉だ。「和だけれども、伝統色が強くなりすぎないものをセレクトしました」と谷山さん。さらにパイル糸の太さや密度、高低差、カットとパイルの組み合わせによる表現に、カーヴィングの技法を交え、6種類の表情をつくり上げた。
    最終的に、6×9m、高さ4.5mの白いフレームに、7段階でグラデーションする和紙の柱32本がテグスで吊られ、目を凝らすと麻の葉文様が浮かび上がるカーペットが敷き込まれた空間が完成した。

繊細な表現で技術の幅広さを見せる

会期中、遠くからでも目を引く和紙からアプローチした訪問者が、スタッフの説明を受けて見上げ、「なるほど」とうなずき、カーペットに視線を落としてしゃがんでじっくりと見る、そういったシーンがたびたび見られた。繊細な差異で展開する素材。そしてアレンジの幅広さ、可能性は確実に伝わっているようだった。

OUR VIEW POINT
コストバランスをとりながら
オリジナリティのある挑戦を

私たちはサンゲツの可能性を示したいと思っていたので、谷山さんの考えとぴったり合致しました

― 鈴木康高

  • 私たちはサンゲツの可能性を示したいと思っていたので、谷山さんの考えとぴったり合致しました

    ― 鈴木康高

    — 展示ブースに使われたカーペットは、様々な織りの技法による繊細で幅広い表現が印象的でした。アキスミンスター織りとハンドフックの技法の特徴はどんなものでしょうか?

  • 鈴木康高 Yasutaka Suzuki

    鈴木康高Yasutaka Suzuki

    株式会社サンゲツ
    インテリア事業本部
    床材事業部商品開発課 課長

鈴木: 機械織りのアキスミンスター織りはパイル糸を1本ずつ必要なところに植えつけるので、具象でも、抽象でも柄をつくることは可能ですが、高速で織っているので、機械を途中で止めることができません。細かい動きは苦手なんです。そしてパイルの高さが統一されるので、起伏のついた表現も難しい。一方、ハンドフックは1本ずつパイル糸を刺していくので、デザインも起伏も自由自在です。ただしほぼハンドメイドになるので、アキスミンスター織りに比べると製作費は一気に上がります。

  • アキスミンスター織り〈カットパイル〉

    アキスミンスター織り〈カットパイル〉

    代表的な機械織りのひとつで、カットしたパイル糸を基布に織り込んでいく方法。カットパイルのみとなる。

  • ハンドフック〈ループパイル〉

    ハンドフック〈ループパイル〉

    ハンドタフトガンで基布の裏から1パイルずつ差し込むため、ループもカットも自由にデザインできる。

  • — 今回はどのように製作されたのですか?

    鈴木: アキスミンスター織りの機械でいったんベースを織ってからパイル糸を部分的に抜き、そこにハンドフックでパターンとなる柄を刺していきました。この方法だと、色も変えられるし、もっと緻密な柄も表現できます。ハンドフックオンリーよりもコストを下げられるというメリットもあります。

  • 今回はどのように製作されたのですか?
  • — 日本でもハンドフックは対応しているのでしょうか?

    鈴木: 製作は中国の織物メーカーです。ハンドフック専業になると、日本だと職人さんが10人ほどの小規模がほとんどなのですが、中国だと数百人レベル。それだけ職人さんがいて、世界の現場に対応していて経験が豊富。柄の細かさやパイルの高低差など、できるできないのジャッジが早いんです。アイデアもたくさん出てくるので助けられました。

  • 日本でもハンドフックは対応しているのでしょうか?

— アキスミンスター織りとハンドフックを組み合わせるのは一般的なのですか?

鈴木: それはないでしょうね。アイデアそのものは以前からあって、これまでにクライアントに提案したり、試作することはあったのですが、納品した例はありませんでした。今回が初めてです。新たな挑戦でしたし、インパクトのある展示となったと思います。

PRODUCT DETAIL

カーペットの織りの技法の組み合わせ

  • 繊細な表現で技術の幅広さを見せる
  • ブースに展示された、カーペットのサンプル。
    アキスミンスター織りとハンドフックによって、緻密な柄が表現された。
    一見無地のようだが、近づいて見ると麻の葉文様のアレンジであり、またパイルの高低などでテクスチャーが異なっていることがわかる。

麻の葉文様は、子どもの成長を祈り、また魔除けの意味もあり、古来より吉祥文様とされてきた。正六角形であることから、永遠につなげることができ、世界に通じる文様でもある。ここのブースでも、麻の葉をアレンジした9種類の文様をつなげて6パターンを織り出した。[図1 麻の葉パターン配置図]
さらに、ひとつのパターン内でハンドフックのパイルの高さに変化を持たせている。中央ほど高く、もしくは低くなるようにパイルを刺している。[図2 麻の葉パターン内高低差]

[図1 麻の葉パターン配置図](展示ゾーンの一部を抜粋)

[図1 麻の葉パターン配置図](展示ゾーンの一部を抜粋
  • エリア:ベース+ベースよりも長いカットパイル エリア:ベース+ベースよりも長いカットパイル

    Aエリア:ベース+ベースよりも長いカットパイル

    • ベースよりもパイル長の長カットパイルで柄を表現

      ベースよりもパイル長の長カットパイルで柄を表現

    • [図2 麻の葉パターン内高低差]

      [図2 麻の葉パターン内高低差]

  • エリア:ベース+ベースよりも短いループパイル エリア:ベース+ベースよりも短いループパイル

    Bエリア:ベース+ベースよりも短いループパイル

    • ベースのカットパイルよりもパイル長の短いループパイルで柄を表現

      ベースのカットパイルよりもパイル長の短いループパイルで柄を表現

    • [図2 麻の葉パターン内高低差]

      [図2 麻の葉パターン内高低差]

  • エリア:ベース+ベースよりも長いループパイル エリア:ベース+ベースよりも長いループパイル

    Cエリア:ベース+ベースよりも長いループパイル

    • ベースのカットパイルよりもパイル長の長いループパイルで柄を表現

      ベースのカットパイルよりもパイル長の長いループパイルで柄を表現

    • [図2 麻の葉パターン内高低差]

      [図2 麻の葉パターン内高低差]

  • エリア:ベース+Cよりも大きなループパイル エリア:ベース+Cよりも大きなループパイル

    Dエリア:ベース+Cよりも大きなループパイル

    • Cエリアよりも大きなループパイルでライン柄を表現

      Cエリアよりも大きなループパイルでライン柄を表現

    • [図2 麻の葉パターン内高低差]

      [図2 麻の葉パターン内高低差]

  • エリア:ベースにパイル糸2色で製織 エリア:ベースにパイル糸2色で製織

    Eエリア:ベースにパイル糸2色で製織

    • 2色のパイル糸でライン柄を表現

      2色のパイル糸でライン柄を表現

    • [図2 麻の葉パターン内高低差]

      [図2 麻の葉パターン内高低差]

  • エリア:ベースを立体的にカット エリア:ベースを立体的にカット

    Fエリア:ベースを立体的にカット

    • ベースのカットパイルをカットして柄を表現

      ベースのカットパイルをカットして柄を表現