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Designer's TALK
- 空間と素材
空間のつくり手が語る、空間と素材へのアプローチ

TALK #17

理想の空間を具現化する
株式会社 夏水組 坂田 夏水

TALK #17 理想の空間を具現化する

夏水組が運営する「Decor Interior Tokyo」でのインタビュー風景(特記以外の写真:鬼澤礼門)

古き良きものを大切にしたリノベーションテクニックや女性の視点によるインテリアデザインで注目を集める、空間デザインオフィス「夏水組」。個人邸をはじめ、企業とのコラボレーション、商品企画コンサルティング、不動産会社と組んだ街づくりなど、幅広い分野のプロジェクトを手掛ける一方、子育てにも奮闘しているという代表の坂田夏水さん。子育てとのバランスを図りながら“理想の空間”をつくり上げていく、バイタリティ溢れる活動やモノづくりへのこだわり、アイデアの原点など「夏水組」のクリエイションの魅力に迫る。

― 「夏水組」さんが手がける空間は古き良きものを生かしたリノベーションと、パリやロンドンのようなヨーロッパの空気感が印象的です。空間づくりにおいて大切にしていることはどんなことでしょうか?

坂田:夏水組は和風もモダンも洋風も手掛けますので、幅が広いとよく言われますが、私たちがスタイルを決めているわけではないんです。お客さまのご要望である憧れの空間をなるべく実現できる方法を探すのが仕事だと思っていますので、それを叶えるために、日本で施工できる壁紙など建材を探すことから始めます。国内や海外から仕入れたり、時には特注で作ることもありますが、基本的にご要望を叶えることを大切にしています。

坂田 夏水

坂田 夏水 Natsumi Sakata
1980年福岡県生まれ。2004年武蔵野美術大学建築学科卒業後、アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、2008年に空間デザイン会社「夏水組」を設立。スクラップアンドビルドではなく、古き良きものを大切にした空間づくりで注目を集めている。

― まずしっかりヒアリングして、それを叶えるための手法を探すことが空間づくりの入り口ということでしょうか。

坂田:そうですね。家づくりだとお客さまの理想の生活やタイムスケジュールがあるじゃないですか。例えば、子どもがいるなど、その人の生活が想像できないと、その人にとってのいい空間を提案できないため、好きなことなどいろいろ聞くようにしています。ただ、初対面で私はこういうものが好きでこういう生活をしていますと、パッと答える方は少ない。だから女性の場合、身に付けているものやネイル、メイクを見るんです。お部屋やお家を装飾したい方は、メイクもネイルもアクセサリーも結構たくさん付けていて、柄や柄の着せ替えを選ぶのが好きな方は、打ち合わせの時に毎回トレンドを入れたおしゃれをきっちりして来られて、同じお洋服を着て来なかったりとか、そういう実際の姿を見て、この人はこういうのが好きなんだなということを受け取るようにしています。ちなみに、ハンカチも個人の趣味を写していて、花柄のレースハンカチを持っている人は花柄の壁紙を選ばれたり、木綿、麻の無地のハンカチの人は、漆喰とか無垢を選ぶことが多いんですよ。

― それは、女性的な鋭い分析ですね。例えば、男性のお客さまの場合はいかがですか?

坂田:インテリアにこだわりがある方って、身に付けるものに全く興味がなくて、インテリアだけ興味があるって方はあまりいないんです。無頓着な方はどちらも無頓着ですからね(笑)。男性も全く同じで、身に付けている靴や時計など、こだわりのある方が多いですね。ただ、夏水組のお客さまは9割が女性の主導権なんです。男性のお客さまであってもちゃんと後ろに女性がついていますので、ほぼ女性の意見が取り入れられていますね。

ボロボロの古民家をリノベーションした福岡の倉庫兼店舗(期間限定のため現在は閉店)。代官山の店舗と世界観を合わせてオリジナルの塗料や床材で仕上げている
ウィリアム・モリスの壁紙をアクセントに使った「LOCAL VILLAGE OGAKI」
女性の憧れを叶える壁紙や家具、雑貨で空間を彩った「ソライエ清水公園モデルルーム」
  1. ボロボロの古民家をリノベーションした福岡の倉庫兼店舗(期間限定のため現在は閉店)。代官山の店舗と世界観を合わせてオリジナルの塗料や床材で仕上げている
  2. ウィリアム・モリスの壁紙をアクセントに使った「LOCAL VILLAGE OGAKI」
  3. 女性の憧れを叶える壁紙や家具、雑貨で空間を彩った「ソライエ清水公園モデルルーム」

― 女性に人気の店舗や新築、シェアハウスなどたくさん手掛けていらっしゃいますが、中でもリノベーションやアンティークテイストが得意分野というイメージがあります。その魅力を教えてください。

坂田:海外から見ると、壁もドアも床も全部新しい新築のほうがレアじゃないですか。日本では新築が好まれますが、中古不動産でいいものがたくさんありますから、そちら側を上手く生かすほうが私は好きなんです。築50~100年の物件にちゃんと手を加えて、もう一度住めるようにする。そして、若い人に愛着を持って長く使ってもらうというのがリノベーションの仕事だと思っています。それは、ピカピカにするという意味ではなく、古き良きものの楽しみ方を知ってもらうことによって長く使ってもらえる。だから、アンティーク調というか、古くて傷ついているけれど、もしくは古ぼけているけれど、この感覚がいいんだよね、というのをインテリアと上手く合わせて楽しんでもらうのが好きなんです。そう言う私自身も新築に興味がなくて、基本的には古い家を探して住み替えるタイプなんです。職業病みたいなものですが、いい物件があって放置されていると、救わないとみたいな気持ちになって、傷んじゃう前に買って加工しないと!みたいな(笑)

― 古民家をリノベーションして、しばらくの間、福岡を拠点に活動されていたと伺いました。移住されたきっかけはどのようなことですか?

坂田:移住する前も地方での街づくりを手掛けていたのですが、ちゃんと移住してしっかり取り組みたいという思いと、仕事と子育てを両立していくには協力してくれる祖父母が近くに必要だということもあり、私の生まれ故郷がある福岡県の北九州市に移住を決めました。街づくりで面白いことを仕掛けるなら、まず初めに自分の故郷からと思うじゃないですか(笑)。子育てしながらでしたので、なかなか自由が効かなかったのですが、移住したからにはちゃんと街づくりをやって、東京の仕事も福岡と行き来しながら続けていました。

― 街づくりというと具体的にはどういう取り組みなのでしょうか?

坂田:古い建物を再生して、内装を入れて、新しい住人を増やす取り込みです。街に新しい人を呼び込むと、そこに新しい仕事、新しい消費、新しい雇用が生まれます。意欲を持って移住してくる人たちは、そこでお店をやりたいという人だったり、ファミリーの場合だと、例えば、お料理が得意だからお教室をやってみようかなど、内装が気に入ってそこに住みたいと思ってくれる人が現れることによって、地元住人さんとの接点が生まれるんです。建物と内装だけではダメですが、それがきっかけとなって、面白そうだからといって引っ越して来てくれる。そうすると、また新しいお家をつくらないととなり、古い建物が出てきて、じゃぁ、そこをみんなで再生しようという流れになる。ひとつきっかけをつくるとそれが連鎖反応となってずっと繋がっていくんです。

― 最初のきっかけになるようなものは何をつくられたのですか?

坂田:インテリアショップをつくりました。東京の「Decor Interior Tokyo」の倉庫機能が必要で、今まで東京にあった倉庫を福岡に移して、倉庫兼店舗という形で始めました。活性化されていない街の何もないところにインテリアショップをポツっと入れると、県外からわざわざ見に来てくれたり、買いに来てくれたり、その材料を街の人が買って自分のお家を綺麗にしてくれたりするので、何もなかったところに街づくりの一要素として最初にインテリアショップを入れるというのは画期的だったなと感じています。

― 確かに、連鎖反応が街づくりに繋がりますね。「Decor Interior Tokyo」では塗装や壁紙の選び方など、夏水組特有の色のトーンで統一されているように感じます。壁紙、カラーなど、こだわりの軸をお持ちですか?

坂田:実はこだわりが強く、それは蓄積されたものや経験だったりしますが、大学を卒業して以来、15年近くお客さまのご要望を聞いて叶えることに関わっていると、お客さまのご要望の中で人気の王道スタイルがあることに気づくんです。その色を塗料メーカーで特注色としてつくっていただいています。フランス語で“マ・クール(私の色)”という意味のこだわりのくすみ色シリーズです。ペンキの缶を見てよく驚かれるのですが、パリやロンドンに行くとオシャレなペンキの缶が普通に並んでいたりしますので、国内の微妙なデザインの缶じゃなくて、こういう缶でペイントをもっと楽しんでもらいたいなと思ってつくっています。

夏水組で人気の色を集めた、「夏水組セレクションペイント」のカラーサンプル全30色。お店には国内外から仕入れられた壁紙が豊富に揃う
夏水組で人気の色を集めた、「夏水組セレクションペイント」のカラーサンプル全30色。お店には国内外から仕入れられた壁紙が豊富に揃う

夏水組で人気の色を集めた、「夏水組セレクションペイント」のカラーサンプル全30色。お店には国内外から仕入れられた壁紙が豊富に揃う

― 個人で壁紙を貼り替えるのは大変というイメージがありますが、ペンキは簡単にできるものなんでしょうか?

坂田:どっちから始めればいいですかと、よく聞かれるのですが、賃貸だと壁に塗れないため、貼ってはがせる壁紙をおすすめしています。持ち家の方には、2~3時間でできるペイントを小さな面からやってみませんかと提案しています。ペイントだけで済む方もいらっしゃいますが、ペイントに満足される方は塗った壁の色に合わせて壁紙を貼り替えたいと言ってくださることも多いです。装飾が好きな方は色だけでは物足りなくなって、ペイントした壁の隣の面に合う柄の壁紙を選びに来る方もいます。本当にペイントと壁紙はセットだなと感じます。いろいろ手を加えていくうちに、床を貼り替えたいと言われることもありますが、床は難易度が高いため、そういう方にはクッションフロアをすすめています。

― 今回、新たに「サンゲツ」と開発されたクッションフロアはどのようなものですか?

坂田:前回のシリーズから一緒に開発させていただいていて、今回新たにランダムドット柄とタイル柄の2種類が加わりました。いわゆるドット柄やランダムドット柄って、普遍的に昔から好まれるものですよね。それが住宅の床に入ったら面白いだろうなということで、思い切って提案しました。実際、発売されると男性の方にも好評のようで、予想していなかった分、意外性があり新しい発見ができました。

― 現代アートっぽく描かれたランダムドットは甘さがなくハンサムな印象ですので、男性にも好評なのかもしれないですね。狭い空間にも使いやすく人気だと伺っています。

坂田:トイレやパウダールームなど、ちょっとした空間でもいい感じの仕上がりになりますよね。最近、2m角程度で購入されて、ダイニングテーブルの下にラグとして敷く方もいらっしゃいます。滑り止め防止を貼っていただいていますが、お手入れも簡単ですし、お子さんがいらっしゃるご家庭では床は汚れたり水浸しになったりしますから、クッションフロアをラグのように敷いて、汚れ防止とインテリアを兼ねた使い方をする人が増えているみたいです。

(TALK #18 に続く)

夏水組ディレクションによって新たに開発されたクッションフロア「Polka Dots」

夏水組ディレクションによって新たに開発されたクッションフロア「Polka Dots」

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